批評祭参加作品■ダイアリーポエム調の散文
mizu K

批評祭参加作品■ダイアリーポエム調の散文

 午前6時半、目覚ましの音で目を覚ます。目を覚ますが再び眠っていたらしい。再び鳴
ったベルの音に目を覚ます。目は覚めているのだがまだベッドの中でもぞもぞする。恋人
におはよーメールをする。返信なし。起床する。床がつめたい。ひやひやしている。さむ
いさむいいいながら洗面所へ。顔を洗い歯を磨く。わずかに出血する。髭を剃る。剃り残
しがすこしあるがめんどくさいのでそのままにする。パンとインスタントコーヒーの準備
をしながら着がえ。メール着信あり。「おはよー、それじゃおやすみ、ぐー」つれない。
ネクタイがあさっての方向をむく。強引に直す。そしたらさらに曲がりくねったので、再
びほどいてしめ直す。絞めすぎて、死ぬ。ぎゅー。
 マーガリンが切れている。ジャムだけ塗る。コーヒーを飲み干す。シンクにてきとうに
置く。水でてきとうに流す。放置。寒さで指がすこし切れている。腕時計をつける。靴を
履く。足がうまく入らない。靴べらを使う。ドアを開けて閉め、鍵をかける。首をすくめ
る。数歩あるいて忘れ物に気づく。鞄を取りにまた室内に入る。また鍵をかける。階段を
降りる。すこしこける。ひやっとする。すこし霜が降りている。息をはあはあする。早足
で歩く。向こうから中年サラリーマンが歩いてくる。朝日に光っている。拝む。三叉路を
左に曲がる。前方を妙齢サラリーウーマンが歩いている。スカートがタイトすぎる。拝む。
横のアパートから小学生が駆け出す。ママーはやくしてー。いつもこの時間杖をついてた
ぶんリハビリ中の老人とすれ違うようにして地下に吸い込まれる。向かい風。生え際を気
にする。階段をおりる。通路を歩く。だれもが不必要なほど大きく靴音をたてている。改
札を抜ける。エスカレーターでおりる。ホームのいつものところに立つ。アナウンス。悲
鳴のような轟音。ドアがあく。乗る。ぎゅうぎゅう押される。なんとか吊り革につかまる。
ドアがしまろうとするが誰かが駆け込む。再びドアが開く。「駆け込み乗車は...」録音音
声が機械的に喋る。走り出す。風きり音がひゅうひゅういう。携帯を取り出したいが痴漢
しそうなので動けない。目だけ動かす。前の座席の人は口をぽかっと開けて寝ている。
ぐーでもつっこみたくなる。後ろの男のなまあたたかい鼻息が襟にかかる。なにも感じな
いことにして目を、閉じようとしたとき斜め前の座席の人の胸元が気になりだす。ちらち
ら見る。いろいろ妄想しかけるが耐える。目を閉じ、ようとしたらまた妄想しだすので広
告でも読むふりをする。“某人気女優(バストxxcm)が脱いダ!”だそうな。“某マジカ
ル・ミステリー・スピリチュアル・カウンセリング・セラピストの信じられない真実!!”
だそうな。“超セレブの高木ブー”だそうな。
 降車駅に着く。ドアが開く前から背中に圧力を感じる。たぶん背後の鼻息のおっさんが
押している。殺意を抱く。ナイスバディのおねーさんだったらいいのにと思う。ホームに
吐き出される。歩く。エスカレーターの右側を音をたてて歩く。改札を抜ける。ラッシュ
に巻き込まれたご老人が駅員となにか話している。誰かの携帯が落ちて通路をすべる。だ
れも見ない。また風が強い。地上にでる。出口でなにか配っている。空が、まぶしい。ビ
ルにむかって歩く。歩きながら人間ウォッチングする。あのイケメンサラリーマンの靴は
かっこいいと思う。すると自分の靴が気になりだす。今度の週末に買いに行こうと思う。
あいつらまた朝からよろしくやってる。殺意を抱く。バーコードのおじさんはいつも左側
を歩く。毎朝鬼のような顔をしてすれ違う人がいる。ビルに近づく。すると同じ会社の人
間が目につくようになる。それまでも同じ方向に歩いていたはずなのだが。しかし挨拶は
しない。エレベーターのところでやっと今日初めて気づいたように挨拶をする。ぎゅうぎ
ゅう詰め込まれて今度は階上へ。だれも喋らない。数字だけにらんでいる。あるいは携帯
を打つ音。
 自分の席に着く。今日も上司のネクタイはひどい。メールチェックする。いくつか返信
する。いくつかは詫びを入れる。いくつかには高圧的に書く。恋人ににゃんにゃんメール
する(こっそり携帯)。ミーティング。寝る。あとでいやみを言われる。アポの確認。昼
飯のことを考えだす。それから12時。同僚と颯爽と外へでる。定食屋へ入る。肉豆腐。
「あのxxがー...」「昨日のアレ...」「マジ?」「ひゃあひゃあ」「へらへら」等。用はな
いがコンビニをのぞく。某新商品を買う。オフィスに戻る。サーバーからジュースをつぐ。
派遣の“お茶くみさん”と話す。「ハケンってけっこうたいへんなんですよー」「そうな
んだー、はははー」「ジュースはセルフですけど、お茶はやっぱり人の手でいれたほうが
いいですよ、ぜったい」「もうプロですもんね」
 プレゼン資料の準備。1年目くんに無理難題をてきとうに指示。それから颯爽と営業に
出る。JRで移動。混んでいる。転職の広告に目がいく。ふいにベビーカーから泣き声。そ
の子の目の前にはドブネズミ色のスーツがいくつか立ちふさがるように立っていた。そう
いえば「車いすに乗った状態での視線の高さでは、黒い服装をしている成人男性が目の前
に立っていると恐怖感を感じることがある」と聞いたことをふと思い出す。まわりの乗客
にはきつい視線をそちらに送っている人もいる。あるいは渋面で目を閉じている人。次の
駅で降りる。
 ホームでおばあさんがおろおろしているようだが、気づかないふりをする。ホームの端
の方で思い詰めた顔をしている人がいるようだが気づかないふりをする。階段をミニスカ
ートのじょしこーせーが歩いていて、もちろん気づいてじーっと見る。ミニスカートのへ
んなおじさんも歩いているが、むろん無視する。改札を出たところで颯爽とGPS起動。颯
爽と取引先へ向かう。なのに颯爽と道に迷う。颯爽と先方へ「電車のダイヤが乱れまして
ー」と遅れる由、伝える。20分遅れで颯爽と到着。超美人の受付嬢に「xxのxxと申します
がxx部のxx様に今日アポイントをとらせていただいているのですが」と伝える。ついでに
ナンパを仕掛ける。涼やかにかわされる。笑顔のままだったが、目は「コイツコロス」と
言っていた。
 15分も待たされる。「いやー、すまんねー、急用が入って、はっはっはー」「いやーこ
ちらもですねー、いきなり人身事故とかがどっかであったみたいでー、はははは」「いや
ー、それにしても寒いねー、はっはっはー」「まだまだ続きそうですよ。それにそろそろ
花粉が...」「いやー、花粉なんてのはね、軟弱なやつがなるんだよ、はっはっはー」「そ、
そうなんですかー、それはもううらやましいかぎりですー」ひどい花粉症なのでこの男に
殺意を催す。あと最初に必ず「いやー、」というのがムカつく。あと「はっはっはー」と
いう笑い声もムカつく。むしろこの男の存在自体ムカつく。が、そろそろ本題に入ろうと
すると、「失礼します」と“お茶くみさん”が入ってきて話の腰を折られる。「ちっ」と
思いながら“お茶くみ”さんを見るとこれまた超美人で、この会社の採用基準は顔か(!
と思う。まあそんなもんだろう。
 商談は「はっはっはー」の笑い声にうやむやにされ、ほとんど進展せずまた後日、とい
うことになる。こりゃ上司にいやみ言われんだろな、と思ってへこむ。1Fの受付嬢の前も
どんよりとして通る。強面の警備員に見送られてビルの外に出ると冬なのに意外に日ざし
が強い。あー温暖化とかいうけどよう、でも風は冷たいんだよう、と悪態つきながら、ま
あ気分転換が必要だ、とパチンコ、はさすがにアレなのでタリリリーというカフェに向か
う。向かう途中、路上駐車している車でサラリーマンが寝ている。くそう、いい気なもん
だ、とさらに悪態つきつつカフェに入る。が、「申し訳ございません、ただいま満席でご
ざいまして、でへへ」と言われ、キレそうになるが、「お、お持ち帰りで...」と口が口走
る。「はい、ではメニューはこちらです」「えええ...っと...」相変わらずメニューが覚え
られず焦る。じわっと体が熱くなる。「えええ...っと...カフェ、、ラテ...」「ホットになさ
いますか?アイスになさいますか?(なんか汗かいてるよこのヒト、きもっ)」「えええ
...っと...ホホホット...で」「サイズはどうなさいますか?(じゃあ最初っからそう言えよ、
ばか)」「えええ...っと...、あのーそのーええー、ちゅ、ちゅうくらいのを...」「ではト
ールサイズでよろしいですか?(サイズくらい知っとけってーの)」「あ、、はいいいい」
「かしこまりました、コンブリオ!(あーぁー)」
 帰社。商談が進展しなかったので、こっそりと席に着く。いくつか入ってきていた仕事
をこなす。それから1年目くんに指示しておいたことがまったくやれていないので鬱憤た
まってがみがみ言う。1年目くん窓から飛び降りそうになるのであわてて止める。あーぁ
ー、いやな位置にいるもんだ、転職してぇ。ちょっと言い過ぎたかなと思い休憩室でコー
ヒーをおごる。
 定時。「おつかれさまっしたー」颯爽とタイムカードをきる。恋人からにゃんにゃんメ
ール着信。にゃんにゃん返信。夕食を一緒ににゃんにゃんすることに。しかし、「それよ
りもきみをにゃんにゃんしたいよ」と調子に乗って返信すると、音信が途絶える。心配に
なって電話する。出ない。ど、どうしたんだーっと電話しまくる。十何回目かで彼女が出
る。「あ、ごめーん、今夜急用入っちゃったのー、じゃーねー♪」断線。つーっ、つーっ、
つーっ。憔悴して帰宅の途。再び満員電車。
 家の近くのコンビニに晩ごはん調達に入る。酒コーナーにラブラブなカップルがいて殺
意を覚える。ハンバーグ弁当に目星をつけつつ、それにパスタサラダでも、と思っている
と、その間に別の仕事帰りの同じく寂しい一人暮らしのサラリーマン風に最後の一個を持
っていかれる。そいつに殺意を覚える。仕方ないのでトマトとバジルとタンドリーチキン
のオムレツ味噌醤油味付け中華風という得体の知れないものを買って帰る。夜道は電灯が
寒々としている。誰も歩いていない。空は曇っている。大方、付近の工場が夜になるとこ
っそり煤煙を出すからだろう。東京は星が見えない、といったのはどの詩人だったか。
 階段をがたがたのぼり、ためいきと一緒に鍵を出してドアを開ける。電気をつけるとま
るで代りばえのしない室内だ。携帯をベッドのふかふかに叩きつける。すぐパソコンの電
源を入れる。起動する間に着がえる。そろそろ洗濯しなきゃな、と思う。パソコンの前に
弁当を並べ、“現代詩フォーラム”というサイトにいく。ログインする。“日付順投稿リ
スト”を見る。最近“批評祭”っていうのをやってるみたいだがよくわからないし興味な
いから関係ない。投稿リストを見ているとホンキートンクの女さんが投稿しているのでう
れしくなる。さっそく読みにいく。(以下全文)


【自由詩】愛と情熱のセレナーデ
         ホンキートンクの女

熱い吐息とこの脈打つ心臓は貴方のために
ああ、わたしの命はすべて貴方のために燃えているわ!
つれなくしないで!
わたしを放さないで!
世界は今、二人だけのもの...

この世界が生まれたときから
わたしと貴方の運命はもう定められたこと...

今夜、貴方とお別れするの、とてもつらかったわ
貴方の炎のようなくちづけが...
ああ、なんて甘美な瞬間!
それからわたしは少女のように頬を赤らめて
白い階段をかけあがったの
それはガラスの階段
わたしの心臓はとても熱く、とてももろい、

もし貴方がいなければ...

 感動して涙がとまらなくなる。もちろんポイントする。コメントも書く。「今まで読ん
だ詩のなかで一番感動しました!」間違いなくこれはトップ10に入るだろう、いや、現
代詩フォーラム始まって以来の高得点を得るだろう!そして、そして、その作品の価値を
見抜き、まっさきにポイントを入れたのはまぎれもなく...!
 と、ひとり熱くなりつつ、ディスプレイの光と蛍光灯の下で中華風弁当とパスタサラダ
を食べビールを飲んで、泣いていた。それからRT会議室でちょっと喋って風呂に入った。
恋人からは今夜はもう連絡がなかった。あーまた明日もあるのかよ、と思いながらベッド
に入る。バタン・キュウ。昼にコンビニで買った某新商品はまだ鞄のなかにあった。



Rolling Stones "Honky Tonk Women"
http://www.youtube.com/watch?v=faEEro38pEA
http://www.youtube.com/watch?v=0RlMjjcYz-Y



散文(批評随筆小説等) 批評祭参加作品■ダイアリーポエム調の散文 Copyright mizu K 2008-01-27 02:56:43
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