死んだアイツのことなんて、どうでもいいと思っていた
わら

2ヶ月ぶりに退院したヤツと飲みにいった

とりあえず、おめでとう、と乾杯した
ひさしぶりに元気そうでよかったなと思った



長話。

こないだは、友人たちと鍋をした
男3人での鍋
そういうのは嫌いじゃない

てきとうに安い肉を入れ込んでは
コタツの上で、ぐつぐつと煮る

そんな何気ないくつろぎが
ずいぶんと久しぶりに思えて
なんだか、ここちよかった



大学に入るまでの1,2年をどうしていたのかは
いまいち分らないのだが、
ひとりは小説家志望とやらで
今も就活そっちのけらしく、
ろくに連絡もとれないでいる

もうひとり、
その集まった下宿の主は
半年ばかり学校を休学していた

こちらも、長い間、ご無沙汰で
その間、なにをしていたかというと
インドを中心に東南アジアあたりを
ぶらぶらと一人旅をしていた

よく生きていたなと思う

そいつから借りた本は
まだ読み終えずにいるのだけれど、
準備よくデジカメを持って行っていたらしく
むこうでの写真を大量に見せてもらった

時折、
明らかにアブない煙に恍惚とした表情を浮かべる現地のオジさんと
肩寄せあってる写真があったりもするのだけど

彼の刻んだ、山々の光、
海のような雲のむこうにかすむ雄大な草原
そして、
砂ぼこりの舞う大地の中、
空よりも大きな太陽を背に
マントをまとい立つ、その男の姿には、
胸を打たれるものがあった

彼が帰ってきて
写真家になりたいと話しはじめたのは
必然だったのかもしれない


そういや、おれも、
いつかのときに、
ひとりでアメリカの地を旅したことを思い出す

西海岸沿いを歩けるだけ歩いて
倒れこむように眠る

金もありはしなかったから
半分は野宿だった

人も少ない崖の上で
水平線の海に陽が沈んでゆくのをながめ、
冷え込む夜に、震えながら眠っていた

銃口をむけられたこともあった

パトカーに乗せられたのも
今となれば笑える話

ただ、あのときは、
単純に、死んでもいいと思っていた




生命力がカラまわる
生きる力と失落が入り混じる

どんな自然の息吹を目にしても
どんなに照りつける日射しに皮膚が熱をあらがっても

こころの内に
ぽっかりと空いたものを埋めあわされなければ
体温は消えてゆくようで
生に、必死に食らいつきながらも
どこかで、なにかに冷めている


ずいぶんと走ってきて
だけど、きっと、
くらやみの中で
カタカタと、うずくまっているのが
結局の自分の本性なんじゃないかと思う

意識は、ゆれては剥がれ落ちる

日々は、ゆっくりと、
ぼくを静けさのなかに引きこんでゆく





大学で出会った親友みたいなヤツは
消防士をめざすと言って学校を辞めた

去年、冬のはじめ頃、
受かったと連絡をうけたときは
ひさしぶりに、希望のにおいをかいだようで
言葉にならず嬉しかった

そして、
なんだか、ほっと胸をなでおろしていた

その後、おれはまた、
いろんなことを思い出しながら
言いようもなく、
自分の居場所を見つけられないようで
手さぐりで夜道をさまよっていた








高校時代の友人とメールをかわす
長い時を隔ててのこと


「がんばってくれ」
今年もまた、受験シーズンがきた

彼はもう、7浪目になる

かつての戦友
その苦悩の端々までもがわかる

人生というもののひとつ、
その修羅に立ちすくんでいる


4浪もすれば、
にんげんは大抵、おかしくなる

過度なプレッシャーの中、
24時間を分単位で刻み
黙々と机にむかいつづける日々

一年間で、
人と話をした、のべ時間が
2時間にも満たなかったなんていう話が
冗談じゃなく言えるようになってたりする

神経を病んで、
ちょうど、これくらいの季節には
手足に湿疹が出てたりなんかもして
それでも、
なにかの菌のせいかなんて思い込んで
キツい消毒薬をふりかけては
ヒフは、がびがびにひび割れていた

打ちこむほどに、
精神も成績も堕ちていくことを悟った







いろんな人間がいる

いろんな人間をみた

連絡がとれなくなった奴
ほんとうに、こわれてしまった奴もいた

いつも、あたまをかきむしっていたヤツのことが
忘れられない

飛びおりたらしいと、
人から聞いたりもした




アイツのことは知っている
同じようなものだ

繰り返す空白の中で
人との接し方を忘れていった
そして、境界を見失った


ビデオテープのからまる音がする
ぱりぱりとコンビニのおにぎりが響いている

そんなものだけが
カラダの中にしみ込んでいった


週に一回、一本だけ、
無機質な陳列棚のカベのすき間で
好みのアダルトビデオを借りてきて

何度も、同じ、それを見ては
毎晩、寝る前にオナニーをする


そんなものが日々のリズムを刻んでいた

ソイツにとっては
それだけが日々の中の、唯一の幸福だった



張り裂けんばかりの絶望を
あふれんばかりの孤独を抱いて、

アイツは、全身を
冷たいアスファルトに叩きつけた









あれから、いくらかの季節が流れて
いつからか、また
おれは、人を愛することを求めてしまったよ

ふつうの人間ヅラして
人々の中にとけこんでいる

ほんとは、どれだけ、うまく笑えるかも
わからないのにな

それを隠したいがためか
だれかにぬくもりをもらいたいがためか

それも、わからないままだ


わきもとへ舌をはわす
形容は
そんな所作のカタチ

死んだアイツのことなんて、どうでもいいと思っていたと
自分に言い聞かす



そして、おれも
どこかで、やっぱり選んじまったときには

死んだアイツのことなんて、どうでもいいって
言われんのかな?


















自由詩 死んだアイツのことなんて、どうでもいいと思っていた Copyright わら 2008-01-24 11:48:50
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