一円の雪
小原あき

一円の雪が降った朝
十円のゴミを収集する車が
難しい顔をして通り過ぎる
百二十円のココアを
二千九百円の手袋で包み
三円分のリップクリームを塗った唇に持っていきながら
それを見つめていた



昨日、五千円のセックスを彼氏とした
互いに払い合うのだから
実際は無料ただなんだけど
そういう仕組みなんだから仕方がない

百円の腕枕を三十分してもらった後
二百円分のマッサージをしてあげた
だから、昨日は百円分得をしたんだ



一円分の白い息を吐いた
夏なら息は透明だから
たまにずるをしたりできるけど
冬はどうしたって見つかってしまうから
慎重にゆっくり呼吸をすることにしている

この公園でわたしは育ったようなもんだ
一回十円の滑り台
一分五円のブランコ
家を出るときお母さんに
三百円までにしなさい、といつも言われたっけ

幼稚園児にも満たない子供が
遊歩道で夢中になって白い息を吐いている
小さな頃って
あれが楽しくてたまらないんだよね
わたしもよくやった
いい加減にしなさい、って
いつも怒られたな



もう学校の始まってる時間だ
広場の真ん中にずんぐり立っている時計を見た
だけど、いつもこのベンチで
わたしの横に座る彼氏はまだ来ない
もしかしたらわたしを置いて
もう学校に行ってしまったかもしれないな

一万円払えば
彼女じゃなくても
セックスはできるもんね
知ってるよ
わたしが欲しかった三万円のリング
それはわたしの指じゃなくて
彼氏好みのあの
すらりと白い指に填まってること
あのとは
この公園でよく遊んだのに



さっきまで止んでいた雪が
また降り出してきた
一円の結晶を
手袋で受けとめたけれど
一円の価値も示さないうちに
消えてしまった

なぜだか寂しくて泣いた
涙は一粒いくらだったかな
そんなことも忘れてしまうくらい
幼い子供みたいに泣いた





自由詩 一円の雪 Copyright 小原あき 2008-01-23 15:06:50縦
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