痛覚レセプタ
あおば



お魚には痛覚がないのです。
ですから活け作りだからって、そんなにかわいそがらずに、たんとお召し上がりくださいね。
美人の女将は三つ指付いて微笑んで、そそくさと隣の座敷の流れに向かう。
風も吹かない此の部屋では早く食べないと傷んでしまいます。
ギンヤンマの風太が促すのでやおら箸を摘んで背中から平らげる。
少しばかり残酷だと思うのだけど、美人の女将が笑顔で命令するから逆らうなんて、
とても出来ないことなのだ。
寒いときは寒いときの、暑いときは暑いときの料理があって、エアコンが普及した現代でも季節には逆らえないし、だけど、
美人の女将は365日笑顔のお面を外さない。
このあたりで物語は具体的に展開するはずなのですが、
テレビ画面には、高性能ねずみのニュースが流れ、跳梁跋扈するネズミが現代の社会の底辺を不気味に揺るがしているので、ほんとは見たくないけど見逃すわけにもゆかないのだ。

痛覚がどこにあるのか、頭脳優秀な齧歯類ならば頭が痛くなるほど考えなくても、すぐ分かる食べ残りの夕食を片付けないだらしない台所周辺が食糧確保に最適な箇所であり・・。

小型飛行機が空中衝突、乗員乗客はどうなったかの報道は聞き漏らし・・。
当選から一年後の県知事の顔が映し出され、痛そうな顔ではなく、思慮深そうな顔をして・・。

お魚の痛覚はどこにあるのか、
雪の無い国の人が、雪のイメージを幻想的な天国的に描いて、雪の冷たさ痛さにまでは想像が及ばないのは当然であって・・。
沖縄からの官費留学生が初雪に感動するのを、我が意を得たりと思って眺めていたのを今頃になって思い出す。彼はふつうに卒業できたのだが、そのころの私は孤立していたので、その後の彼のことはなにも知らない、彼も私のことはなにも覚えていないだろうと思うと少しばかり口惜しくなる。沖縄が日本領土になって、彼のパスポートも不要になって、元気に活躍しているだろうと思っている。

お魚の痛覚はどこにあるのと人問えば
ここにあるのと
卵の内の
魚の赤ちゃん
泣きじゃくる
負けた選手も口惜しくて口惜しくて
涙声になっている
口惜しくて。

お魚には痛覚がないのです。
だから・・。




自由詩 痛覚レセプタ Copyright あおば 2008-01-21 22:29:35
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