変わるくらい
佐々木妖精

高校で処方されたトローチを
ずっと舐め続けている
いつか消えるという
先生の言葉を信じて



大学生にさん付けされ
上司にはくん付けされる

しかし口の中にはまだ
トローチが悠々と
体積を変えずに転がっている
味覚はだいぶやられたが
鼻は通ってきた
四次元の効果だ

紙面がやたらにおう
しかし好きなにおいだ
香水の匂いと汗の臭いは同じだ
どちらも生活の香りだ

刺激を求めて炭酸を喉へ流す
これは初めて飲み込んだ海水を思い出す
マウストゥマウス
実父にファーストキスを奪われた
虐待などなかった昔話

穴を息で震わせたり
小刻みに舌で塞ぎ遊ぶと
声をかけてくる人や
ぶん殴ってくる人がいて
これは鳴るんだと気づき
舌と穴の角度や振動を自室で試す

粉雪が頬に突き刺さる中
丈の短いスカートを見かけ
イジメの一環としてはかされているのではないかと
トローチの穴を全開にして鳴らす

恋人の耳元で半分穴を塞ぎ
俺は高校くらいまでロリコンだったんだぜって
好きになった同級生の名を吹き込む

ネクタイを締めて
トローチをしたに隠す



そのくせたまにちらつかせて

それおはじきやないか

そう上から覗き込んでくれる先生を
まだ求めていたりする

トローチが溶ける気配はなく
噛み砕くべきか考えている


自由詩 変わるくらい Copyright 佐々木妖精 2008-01-09 03:02:15
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