リライト:Gandou
風季

飴色の地盤は
不思議を綴じた歴史を詠う
黒絹が天空を翳ませ、解れた模様を編んで流す
苦笑いしつつ光の輪を頬に受け、寂しい溝に沿う路をどこまでも慕って
鍵型の角、真っ白い蹄の牛が、艶やかな車の輪を転がし、遺跡を越えて行った
鼻にかかった幾重の歌声、ひそやかに聴こえて
鞄をぶつけてやりたい
音もなくわらう
少し子供になる
鞄をぶつけてやろうか
妬ける目
濁った情で覆われたものだよ
ねえあなた、貧しい背中を診てくれないかな
応答を避ける問いが乱れる頭のなか
焼き切るという約束なの、もうすこし
虚空に浮かんだ紙飛行機の、尖端にコツンと肩を衝かれ、よろけた途端に世界が、逆さまになる
沸き立つ歓声に脛の脱力
置いてきぼりの剥き出しの砂利道
てのひらを石片に食ませ
胸をざらざらと伝っていく、切れた鎖、ルビーのロザリオ、仕方なく握り締める

つがう骨の窪みに圧し当てて
成さない叫び
朝はどうしよう
夕はどうしよう

車は、セラミクス塔へ辿り着いて
私の愛人は其処にいた
揺れる灯はアクアマリン、宇宙から寄せる波に息を合わせて、縦に連なる菱形の明り窓からあふれてこぼれて
塔は澄んだ水色の蛇になったよ

毎年決まった夜を、繰り返し祝う二人
彼は階段を降りきった場所で、紅い花を妻の手に託す
妻は山向こうを翔ける雲をいかにも惜しいと眺め
頷くように視線を戻して彼の腕に傾く
飛んでいくかに見える
軽やかな白い踝

残酷性なんて、事前に分解しておけよ
口を塞いで無限まで運んでゆけるよ
盲目を悩みのたうつ蔓草さえやがて、しあわせの敷地へのびていくのか、枯れ井戸から這い出して、酷い太陽に灼かれようとも
麗しい血統
優美な二人は
いついつまでも間違いない

赤紫のインクの入ったペンを振り、ときどき傾けながら
昼はどうしよう
宵はどうしよう
呪文を返す茨を瞼に浮かべ、それでも
口をつぐむ地図の皺をのばしては
約束を果たしに距離を縮めている
体を折って一度きり哭いたら、温かい滴が瞬きを制して落ちて、爪先の地面に黒い円が重なる
小さな金のロケットに羅針盤の針が眠る
膝まで及ばぬ、こまかな繍の下衣をドレスで覆う
チケットを噛み、手袋を外して結い髪

山門をくぐる
すがしい森の深みと湿度が、体に詰まった熱をひとつずつ、弾き落としていく
こんこんと昇る息、オレンジの色味のさした頬、強く目を射るイルミネイション
ようこそ
波打つ声が八方へ拡散する
お招きありがとう
ポツリと呟く
模型のお城の佇まい
正門の時計が嘘の塗料をキラキラさせ
静かに槍を携えた番兵
それはプラスティック
睫毛を伏せた

キャラメル色の焚き火とホール
百合を象った白い万年筆を差し出す男の子
社交辞令が口の中で、別な訴えになっていたそうで
噎せていた視線が甲虫のように静かになって

ふとランプに染まった爪から目を離したとき
慶びを滲ませた眸に捕まえられた

口づけたさと
逃げたさが踊っているバルコニーで
背を伸ばし、熟した月を嘗めた
眩しい躊躇いの玉が幾つも肩を滑っていった
吹き付ける甘さが
冗談でもいいと
ブランケットを受け取り、口許を隠す

白を黒と言えるほどあざやかに
くるわせてほしいよ

項垂れる彼等はいつの日も爽やかな酔いを不器用に弄ぶ

ラッピングを解かれたくて
抱いた痺れを、忘れてしまった
枯れた実を耳で数え、外国語の暗誦
海鳴りに怯えて、離陸する

厚い幕にあなたを遮られようとも意に介さない

華やかな宣告だった、ときみが微笑んでいる
バルコニーの上、照れ隠しにまた笑って

山肌を降りる好い風を届けたかった
潮騒を
なんて、満ちている
澄みきった黒いペンの色に
目を閉じる


未詩・独白 リライト:Gandou Copyright 風季 2007-12-30 22:20:43
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