レクイエム
石畑由紀子

寝つけずに気がつけば
枕元に私の子供が立っていた
一度だけ会えた時あの子は手も足もバラバラの血まみれで
顔なんてもちろんわからなかったけれど
不思議とあの子だ、と感じた
嗚呼、女の子だったのか
清潔そうな服を着ている
髪は私に似てクセのないストレートだ
名前を付けていなかったので何と呼んでいいかわからず
私の子供ちゃん、と呼びかけると
子供はまばたきだけで応えてきた
じっと私の顔を覗きこんでいて動かない
長い髪の先端が私の頬をかすっている
思えば私はあの男のことを思い出すことはあっても
この子のことを思い出すことは避けていた
血が繋がっていて
一緒に痛い思いをしたのはこの子のほうなのに
私もつらかったのよ、と絞り出したところでそれがこの子のなんだろう
この子はきっと私を恨んでいる
あれから十数年独りで懸命にここまで育って
やっと私の元にやってきたのではないだろうか
足は疲れていないだろうか
お腹は空いていないだろうか
夜道は怖くなかっただろうか
私の子供ちゃん、よく頑張ったね



ママ、
 ママ、
耳の中で呼ばれる、私によく似た声
子供はずっと無表情のまま私を覗きこんでいる
寂しかったの?
寂しかったの、私もよ
あれからどうやっても子供ができなかったよ
子供ちゃん、一緒に布団に入って眠ろう
眠れるまで子守唄を歌ってあげる
そのあとで私をどこに連れて行ってもいいから

ママ、
 ママ、
耳の中で子供の心臓が鳴る 笑い声と泣き声が聞こえる
歌うことがなかった子守唄を想う
許さなくてもいいから
もうすこしだけ
こうしていて
こうさせて
いて




自由詩 レクイエム Copyright 石畑由紀子 2004-06-18 22:17:50
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