オムレツ
銀猫

まどろみの向こうで
たまごが焦げる
かしゅ、かしゅ、と三つを割って
手馴れた指は
ぬるく充満した昨夜の空気と
朝とを掻き混ぜたのだろう

ふっと白くなる意識と
休日の実感とを
贅沢に行き来しながら
巣に篭っているのは
うん、と幸せなことだ


むせ返る人混みで
新聞と化粧の匂いに息を詰まらせ
停車駅で、
僅かに入れ替わる澄んだ空気を求めて
やっと息を継ぎ
四角い服に包んだ身体を
なおさら硬くして
無機質なニンゲンに化けている

コンクリートの森では
機械仕掛けの門番を横目に
ちいさな秘密と呪文を片手に
マーブル模様に巻かれている
いったいそれは
幸福の元手だろうか


皿の触れ合う音がする
真ん中に横たえたオムレツに
フォークを突き立てれば
人肌の黄色は
なごやかな速度で零れ
にんげんひとりぶんの体温を
歪んだ四角に注ぎ込む


きみ、よ
その幸福の指で
わたしの殻も割ってくれないか
かしゅ、かしゅと




自由詩 オムレツ Copyright 銀猫 2007-11-15 18:13:15縦
notebook Home 戻る