泪雨
愛心
ふ と
空を見上げると
家の間に
雲の子どもが住み着いていた
「おぉい」
こちらを向いた
「家賃は払ってくれますかぁ?」
雲の子どもは頷き
そこを動かない
僕は家に入った
放っておくことにした
数か月後
暑い夏が
台風を呼んだ
ほんの数か月の間に
雲の子どもは大きくなり
ここ数日
僕の家の周辺は
毎日曇りだった
洗濯しても
なかなか乾かず
しかも
家賃も払ってくれていない
「あのー」
雲がざわめく
「やーちーんー」
返事なし
雲の子どもは
いつ
雨となって
ここから離れてくれるのだろう
台風が間近に迫り
テレビのアナウンサーが
近所で
飛ばされそうになりながら
中継をするようになった
そして
台風が
やって来た
もうすぐ
僕の家の真上を通る
雲の子どもが
危ない
「おぉーい逃げろぉ」
反応しない
「台風だぞ」
答えない
「巻き込まれるぞ」
返事なし
一瞬の突風
気付くと
空は青くて
雲の子どもは
いなくなっていた
部屋に戻って
テレビをつける
僕の住む場所から
遠く離れた場所に
台風は移動していた
たった数か月
住み着いていた
邪魔だった
雲
家賃のかわりに
僕の居場所を守って
そして
消えた
馬鹿な
くも の こども
外に飛び出した
あぁ
天気雨だ
顔中しょっぱい
雨に降られた
優しく接せなくて
ごめんな