秋、さすらい
恋月 ぴの

美術館前の石畳は冷たい雨に濡れ
慌てて開く折り畳み傘は
夢のなかから引き摺りだされたのを
ごねてでもいるのか
機嫌の悪さを隠そうともせず

冷えたこころをあたためてくれた
あなたの背中がいとおしい

ひとを好きになれることの幸せと

厚着でもしてくれば良かった
絵画の中の彼女は
物憂げな表情のなかにも
何かへの確信に満ちているようにも思え

有名な絵だったんだよね

「告白」
そんなおおげさなことでもなかったけど
わたしのなかに棲んでいる
もうひとりのわたしが
背中を押してくれたような気がする

自分を好きになれることの幸せ

あのときの笑顔
あなたに媚びたわけじゃなくて
素肌のこころを取り戻すことのできた
わたし自身の表現だった

雨に濡れた公園の広場には
ひと影もまばらで
恋人たちの憩うベンチも冷たさに凍えている

今のわたしってどんな顔しているのかな
こんな雨のなかで
にやけていたら恥ずかしいけど

水たまりを避けながら
相変わらず機嫌の悪い傘とふらり

さすらう






自由詩 秋、さすらい Copyright 恋月 ぴの 2007-10-26 22:40:20
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