なんでもない一週間
小原あき

月曜日
わたしには仕事などない
だけど、うちにばかりいると叱られるから
とりあえず、仕事に行くふりをして
たんぼの畦道をよろよろと歩いた

畦道は細くなったり
太くなったりして
歩きやすかったり
歩きにくかったりしたけど
まあまあ一日楽しくなったので
帰ろうとしたら
暗くなったのでそこで眠った

体育座りをして
顔を膝に埋めたら
モグラになりたかった


火曜日
眠っていたら農夫に起こされた
不審な顔をしていたけど
大丈夫です、と言ったら解放してくれた

何かを忘れていたような気がして
公園に行くと
オレンジ色が喧しかった

柿をむしって食べたら怒られた
今日は怒られてばかりなので
なんだか悲しくなった
日が暮れそうなオレンジを見ていたら
なんだか悲しくなった
少し泣いた

泣き疲れた体をベンチに横たわらせたら
空を飛んでる鳥になりたかった


水曜日
まだ夜が明け切らぬうちに
身体中がびしょ濡れになった
風邪をひいてしまうかもしれないと不安になりながら
とりあえず、屋根のあるところで雨宿りした
雨は止まずに
代わりに強さを増して

泣き声がしたと思ったら
雨がっぱをきて長靴を履いた小さな子供が
水溜まりの上で倒れていた
助けようと駆け寄ったら
傘をさした母親に不審な顔をされた

雨が止んで
水鏡に映ったわたしは
浮浪者のようだった
事実、わたしは
帰るべき家を忘れてしまっていた

小さな子供みたいに
倒れこんで地面に突っ伏したら
枯れ葉になりたかった


木曜日
案の定、風邪をひいたわたしは
熱があるせいか起き上がることができなかった
頬っぺたに砂利をひっつけながら
ただ、地面にしがみついていた

近くにあった木が
布団を掛けてくれた
枯れ葉がわたしの背中に積もって
昨日の願いが叶った気がした

枯れ葉はどんどんわたしを隠し
きっと焼き芋にされてしまうのだろうと思った
そんな意味不明な思考回路
きっと熱にうかされている証拠だろう

枯れ葉の中にいたら
星になりたかった


金曜日
わたしは何者でもなかった
星はわたしを称え
キラキラと拍手喝采だ

目の前にある星は地球で
きっと、わたしは
それを手に入れることができたのに違いなかった
太陽は誰よりも大きく手を叩き
熱く燃え上がっている

暗やみの宇宙は
いつが朝か夜かわからなかった
不安になったら
人間になりたかった


土曜日
動くとカサカサと音がした
何かが腐ったような臭いに気分が悪くなり
起き上がったら
木曜日に戻っていた

だけど、確実に時は過ぎていて
わたしの体から風邪が逃げ出した後だった

よろよろと立ち上がると
腐ったような臭いは
自分が放っていることに気が付いた
しかし、どうしようもなくて歩いていたら
すれ違った人がわたしを見て驚いていた

次の瞬間、その人の目からは涙が溢れ出し
わたしは抱き締められていた

この人の妻であることを思い出していた

帰る道は不思議と知っていた
迷うことなく着いた家で
すぐに温かいお風呂に入る
夫は何もかもわかった顔をして
そっと抱き締めてくれた

ふわふわのベッドに横になったら
主婦になりたかった


日曜日
夫はどこへも行かず
わたしもどこへも行かなかった

二人向き合って
笑い合った

そんなことで
寒かったのが
あったかくなるなら
一週間、わたしは笑い続けてやろう

あったかな木に寄りかかったら
もう、何にでもなりたかった






自由詩 なんでもない一週間 Copyright 小原あき 2007-10-26 20:13:05
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