創書日和「酒」
虹村 凌

冷たい金属のドアノブを回し
軽い色をした重たい木製のドアを開ける
笑顔で迎え入れてくれた先輩方は
僕の方に腕を回す

僕は震える手で小さなショットグラスを掴み
ひと思いに流し込む
出したての精子のような
溶けた鉄のような
言い知れぬ熱さをもったそいつは
喉を切り裂きながら胃袋に滑り落ちてゆく

「ごちそうさまがきこえない」
天使のような悪魔の笑顔
満たされるショットグラス
指先に力が入る

「いただきますがきこえない」
天使のような悪魔の声
満たされるショットグラス
手のひらにまで力が入る

「一滴残ってる」
天使のような悪魔の笑顔
満たされるショットグラス
上腕二等筋が震え始める

「いただきますがきこえない」
悪魔のような悪魔の笑顔
満たされるショットグラス
肩がはちきれんばかりに力を込める

「一滴残ってる」
悪魔のような悪魔の笑顔
満たされるショットグラス
右腕の感覚はとうに無い

叩きつけるショットグラス
部屋に逃げ帰るも鍵を忘れて部屋に入れない
うずくまって朝まで眠る
ルームメイトは起きてこない

夜明けと共に目を覚まし
鍵を取りに部屋に戻るも
肩に担がれて廊下を引きずられる
ベッドの上に投げ出され
土日はずっと戻しっぱなし

あの喉が焼け爛れた痛さ
忘れようとも忘れられぬ
ゲロにまみれて眠った毛布を
寒いけどゲロで塗れて冷たくなった毛布を離せない
そんな悪寒と戦い続けた事を
ドアの陰で俺を笑う飲ませた素敵な先輩方を
忘れようとも忘れられぬ

酒などいらぬ!
飲まぬ!酔わぬ!買いもせぬ!
この俺の人生に料理酒と養命酒以外はいらぬのだー!

養命酒ワンショットで眠くなる男さ俺は
さすがにそれで寝ゲロはしねぇけどな


自由詩 創書日和「酒」 Copyright 虹村 凌 2007-10-23 09:08:16
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