ブルー(reprise)
mizu K



ブルー
このことばから導き出される感情
印象、心象、映像、記憶、追憶
日々流れていく風景は
車窓の景色が特急列車で飛んでいくように
はっきりと認識することができず
ぼんやりと視界のすみにとどまる
そう、そして同じように記憶の片隅にとどまる

ブルー
このことばから導き出され、想起される映像は
それは人によって様々であろうが
「ピカソの青」といえば
あの青である
あの青である
そう、今日、実は、人びとで混雑した交差点で
バケツいっぱいの青い絵の具をぶちまけた男がいた
バケツいっぱいの青い絵の具をぶちまけられたので
その辺にいた人は青い絵の具を頭からかぶって
みんな真っ青な顔をしている

それから横断歩道の白線にも
青い絵の具がいっぱいいっぱい広がったので
そこはまるで、黒いアスファルトの上に突如
小さな青空が現れたよう
そんな錯覚がおそってきて
僕はちょっとめまいがしてその場にしゃがみこんでしまった

強烈な青い色の絵の具はぶちまけられて
バケツいっぱいぶちまけた男はどっかいっちまった
そう、どっかいっちまった
そう、どっかいっちまった
そう、まるで空にすいこまれたように
そう、まるで空にすいこまれたように
そう、まるで空にすいこまれたように
どっかいっちまった、どっかいっちまった、どっかいっちまった
どっかいって、消えちまいやがった
見上げれば青い空が広がっている
目に、しみる
ある、晴れた、日に

ブルー
青い声をしている人がいる
その人の声は、その声が聞こえる範囲のすべてのものを
青く染めてしまう
青い、青い、雨のように
そんな青い声をしている人がいる
それはたとえばスザンヌ・ヴェガの歌声だったりする
青い雨の日、青い朝、青いダイナーで、青いコーヒーを飲んでいる
ガラス越しに外を歩く青い女の人が見える
青いスプリングコートを着た人が歩いていく
青い女の人がガラス越しにうつった自分の姿を見つめている
その人のストッキングは伝線していて
その人はそれを気にしているようにも見えるし
ただガラス越しにこちらを見て、視線はどこか遠くを見ている
そんな気もする
ただ、豊かな髪が青い雨にぬれていく
青いコーヒーを飲んで、青いダイナーでぼんやりしている、僕
遠くで朝の、朝のカテドラルの鐘がひびいた
響く音の青さ
石畳にしみこむ青い雨、声、水、靴音、サイレン、クラクション、リフレクション
もろもろの感情、印象、心象、映像、記憶、追憶
人びとの青い記憶

ブルー
君は今までどこにいたのか
どこに行っていたのか
どこをほっつき歩いていたのか
どこをうろうろしていたのか
どこをぶらぶらしていたのか
どこをさまよっていたのか
どこを徘徊していたのか
どこを目指していたのか
どこでギターを弾いていたのか
どこで走っていたのか
どこで声をあげていたのか
どこで歌っていたのか
どこで叫んでいたのか
どこで泣いていたのか
どこで倒れていたのか
どこで倒れていたのか
どこで倒れていたのか
路上で、駐車場で、ビルの屋上で、草っ原で、アパルトマンで
橋の上で、線路の上で、崖の下で
駅のホームで、公園のベンチで、石畳の上で
モハーの断崖で、教会の前で、ダブリンのテンプルバーで
どこでどこでどこでどこでどこでどこで
ブルーブルーブルーブルーブルー

「ブルー、オレはあせりすぎたのか
ブルー、オレはまだバカと呼ばれているか
ブルー、オレは負け犬なんかじゃないから
ブルー、オレはうたう、愛すべきものすべてに」
なんて尾崎豊をパロってみたい気分は
そんな気分さ、つまりそれは気分さ
つまり、それは、気分さ
すばらしくてnice choiceな瞬間さ
それは、そう、そういうことだ
Fishmans! Fishmans! Fishmans!
なあ、佐藤伸治よ
あんたはなんで死んだんだ
あんたはなんで死んだんだ
あんたはなんで、なんで死んだんだ
なんで空になっちまったんだ
なんで青い空になんかなっちまったんだ
「アオイソラ」なんて別にAV女優のこと言っているわけではないんだ
僕はただ、横断歩道にぶちまけられた
あの青い絵の具がつくり出した小さな青空のことを
考えているだけなんだ
そのことについて語りたいだけなんだ
そうだ、
横断歩道にぶちまけられたあの青い絵の具がつくり出した
小さな青空のことを考えているだけなんだ
little blue sky
little blue sky
little blue sky

そうだ、横断歩道なんてまるで墓場だ
人が目の前でばんばんはねられるし
鳩が目の前でばんばん落ちてくるし
和田アキ子もいつもじゃないけどときどきばんばん降ってくるし
もしかしたら今度、黄色信号で突進してくるみのもんたにはねられて
青空になってしまうかもしれない
ねえ、僕らは死んだらどこへ行くんだ
本当に青空になっちまうのか
本当に土にかえっちまうのか
本当に炭素になっちまうのか
本当に燃やされて煙になって空にのぼっていって雲にのって運ばれていって、雨になって
広島の原爆ドームあたりを歩いている
あなたの肩に降りかかるのか
そんなときあなたは手をいっぱい、大きく広げて空をみあげて
いらっしゃい、って
雨になって散らばる僕を精一杯うけとめてくれるだろうか

ブルー
このことばから導き出される感情
印象、心象、映像、記憶、追憶
日々流れていく風景は
車窓の景色が特急列車で飛んでいくように
はっきりと認識することができず
ぼんやりと視界のすみにとどまる
そう、そして同じように記憶の片隅にとどまる

ブルー
このことばが想起させるイメージは千差万別だ
そうだ、人が経験した数だけブルー
このことばが想起させる記憶はブルー
もろもろに

ブルー
ダブリンのテンプルバーでバスキングしている
ブルーズハープ吹きのじいさんが言っていた
まあ、生きてりゃなんでも起こるし
なんとかすりゃなんとかなるもんだ
何かにぶちあたったときは、さあ、どうするかね
上を見あげりゃいつも空がある
晴れてりゃ青空がある
くもってりゃ雲がある
くずれていれば雨が降ってくる
でも、オレはここで、いつも音楽をやってるからさ
気がむいたらやってきな、聞きにきな、しゃべりにきな
そうすりゃ、リトル・ブルースカイって曲でも
ひとつ吹いてやるさ、雨降っててもな
それでいいだろう?

ダブリンのテンプルバーで
歯の少ないじいさんはそう言って笑った
ダブリンの人通りの多いテンプルバーで
歯の少ないすかすかのじいさんはそう言いながら
今日もブルースハープを吹いている
それを聴きながら僕はあの青い空のことを考えてみる
ブルー、ブルー
ありがとう、ブルー
もう少し君を思うことで
もう少し生きていけるような気がするんだ

ありがとう
ありがとう
ありがとう

ありがとう

ブルー






自由詩 ブルー(reprise) Copyright mizu K 2007-10-23 04:21:03
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