「青い春」と呼ぶ
千月 話子

両の指を痛い位絡めて
錆びたフェンス越しに友を見ていた


立ち入り禁止区域
思い切り高く遠くへ放った
僕達の鞄
一瞥して走り行く
君の ズザザと力強い
足元の埃


駆け上がるフェンス上
危険な有刺鉄線をかわし
友よ 手の平に少しばかり
傷を付けただろうか


赤く腫れた頬
拳の傷
自分の痛みを知り
君にも深く分け与えた


放置された草むらで
飛び上がる虫を目の端で追いながら
君を 見失う


上空で低く飛行する旅客機
ジェット気流が
色の変わった草を揺らし
僕は 察知する


両の指を痛い位絡めて
錆び付いたフェンス越しに
高く 叫ぶ
「伏せろ!伏せろ!伏せろ!」
と 記憶を少しばかり欠いて


轟音が静寂を生む
呆然と立ち竦む僕の周りの無音
映画のように景色が回る


疲れ果て しゃがみ込む鼻先に
緑踏む青臭い匂いがして
やがて 帰って来るだろう


友の放り投げた
鞄の痛みに傷付けられても
もう 何も返さない
ただ黙って
腹に拳を打って
肩を抱き合い
危うい 生を確かめる


僕達の事情は
半透明な船に乗ってやって来る
それは
静かに足元でさざ波を起こし
春の嵐のように心を沸き立たせ
春雷にビクつき
咲き始めた花の香りにふら付く


青春なんてクサい言葉は使わない
青い 春だ
澄んだ薄青の空に流れる
複雑な形の雲
間に間に
一本美しく伸びる
飛行機雲を見つけては
口の端で軽く微笑む


僕たちは そう
生き始めたばかりだ
生き始めたばかりなんだ






自由詩 「青い春」と呼ぶ Copyright 千月 話子 2007-10-19 17:34:41縦
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