幸せの土壌
チアーヌ

わたしがまだずっと若くて
恋を信じていた頃のこと
大好きな恋人に
捨てられて
それでもしつこくして
嫌われて
あんなに好きだって言ってくれた人が
変わってしまったのが
どうしても信じられなくて
泣いても泣いても苦しくて
ぽっかり空いた穴の中
落ちて行こうと何度も思って
バイト先のコンビニでは
明らかに挙動不審な店員になってしまって
「休んでもいいよ」

暗にクビを言い渡されたり
今なら笑って思い出せるけど

それはそれは真剣でした
彼を取り戻すためなら
悪魔に魂売り渡してでも
お金で彼を買えるなら
どこからでも借金して
なんて

そんな思いが万策尽きて
いよいよ残るのは
こんなに苦しい自分が無くなれば
すべてを終わらせることができるという真実

そんなとき
様子がおかしいと
何度も電話をくれた友達や
無理矢理に
わたしを親戚宅に押し込んだ両親や
親戚宅の黒犬がいなかったら

いなかったらって思います

人はひとりで生きて行けないと
よく言われているけれど
そうじゃない

誰かが愛してくれているということ
そのひとつひとつは小さくても

恋人なんかいなくても平気だよ
もともとひとりなんだ
生きて死んで
病気のとき
たとえば出産のときだって
痛いのはひとりだけ

でもね
愛してくれる人がいる
愛してくれる犬がいる
小さい小さい愛のかけら
そういう集まりの中で
自分も小さな愛を誰かに
そんな風に暮らして行けることが
たぶん
幸せの土壌になる

毎日
息を吸って吐いて
できるだけでいいから
前を向いて







自由詩 幸せの土壌 Copyright チアーヌ 2007-10-14 12:20:41
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