からっぽの観覧車
九鬼ゑ女

巡り来る時が
交錯する瞬間
ゆっくり、たおやかに
観覧車が宙に弧を描きはじめる

小さな箱の中では
あたしとあたしの中の永遠のこどもが
膝と膝をくっつきあって

   回る…ね
   回る…ね
と、目で笑い合う

外側と内側の世界に隔絶された時間が
ごとんと大きくひと揺れする

喧騒と瓦解だらけの……
この街の
囲われ人たちが
みるまに小さくなっていく

あたしは一呼吸していまを空っぽにする
それを真似てかこどもも
過去をひとつだけ吹き出す
驚いたあたしは
吹き出された過去を慌てて飲み込む
と、老獪な囚人があたしの背後から
嫌らしい媚を売りにくる

観覧車はすでに頂点にあり
時が次第に下降しながら
あたしの中のこどもを
奪おうとテグスネを引き出したので
膝っ子増を抱え込むその子の手を引っ張りながら

  ほらっ…ね
  ほらっ…ね
と、時の扉を潜り抜ける

宙に浮いたままの空き箱が大きく揺れる

そして空虚を乗せたまま
観覧車は再び
時の空に旅立ってゆくのだ



自由詩 からっぽの観覧車 Copyright 九鬼ゑ女 2007-10-07 16:00:26縦
notebook Home 戻る