ボブソン
はらだまさる

千利休が七輪でツバメを焼いて食べている、
そんな絵葉書が一枚届く
彼女はそれを見ながらテレビ画面を舌で舐めている
その姿が、どことなく黄昏ていて
テレサ・テンの歌声とともに
無限増殖するスーパーマリオと
木人拳をこよなく愛し
どちらかといえば
星座占いよりも血液型占いを信じた
理由は簡単だからだそうだ


冬の円周率を、足の裏に
ミノルタの一眼レフで
山の写真を撮るみたいにして
あんたはいつも一人で
その色眼鏡で
ワンカップ大関で
丁度、今日みたいな寒い夜
近所にある教会の掲示板には
「こころの貧しい人は しあわせだ」
と書いてあるんだと話してくれた


ボブソン、
ふたごのおたまじゃくしが
何日も、何日もかけて
小さな川を
横切ってゆくよ


階段で下りて来た
あんたがくれた学習机から
社会の教科書、アンジュール、
ジョン・リー・フッカーのブルース、
三面記事の暗いニュース全部


道端で眠って
何の夢を見ていた?
十月に、二階から下りて来た
ゆぶゆぶと
カーリーガートや
ダシャシュワメードの朝の近さで


あんたの世の中は
渦々としている
少し気味が悪くなって
一度だけ振り返って家を出た
午前八時、湿度六十四パーセント


セロニアス・モンクばりに変調してゆく
大津駅の公衆便所では
男がニタニタと笑いながら
涅槃のポーズで寝ている
大きな赤蕪を
片手にぶら下げた女が
ぶつぶつと
口から渦を吐き出しながら
失くしたサンダルを探しているのだけれど
彼女の目もぐるぐると
渦を巻いている


ボブソン、
ユリカモメが飛んでいるよ
世の中が、音楽している
音楽はヘンリク・トマシェフスキーの
イラストから聴こえてくるものにそっくりで
わたしはジャズをきながら民謡を歌うことにした
もうそんな甘いだけのテレビなんか舐めるなよ
買ったばかりの自転車で
琵琶湖を百周するから


色鉛筆党の
武内ヒロクニが笑ってる
それだけで、わたしは元気になれる気がする
ケセラセラ、だよ


ボブソン、
ぼくは彼女の手を握って





自由詩 ボブソン Copyright はらだまさる 2007-10-01 21:09:35
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