【童話】ある乞食の話(第一話)
プル式

ある日乞食は言いました。私にも人生があったのだと。少年はその呟きを、たまたま、通りすがりに聞いたのでした。
そうしてそれを聞いた途端、その場を離れなければ為らないと感じました。しかし、少年がいくらそう思っても、少年の足は、まるで木の根が生えた様にぴったりとその場に張り付き、一向に言う事を聞かなくなってしまったのでした。
「私にも、人生があったのだ。」
再び乞食は言いました。そうして、とつとつと一人、話し始めたのでした。

その昔、乞食は商人でした。商人と言っても、毎日、町から町へ渡り歩く、いわゆる行商というやつで、その日暮しの気ままな毎日でした。勿論、売り上げの芳しくない日も在りましたが、概ね商人の売る物は、一日の内に売り切れとなり、次の日には、また、別の町に旅立ってしまうのでした。

ある日、男はいつもの様に露店を広げ、呼び込みを始めました。しかし、男がいくら声をかけても、誰ひとり、見向きもしません。こんな事は初めてです。いったいどうした事だろうと、あれこれ考えて見ますが、一向に解りません。そのうち日が暮れ始め、ついに、その日は何一つ売れないまま、男は店じまいを始めたのでした。
その日、珍しく町に泊まった男は、これ又珍しく、酒場に向かいました。いつもなら旅途中の、小さな軒を借りて夜を明かすのが、常だったからです。男は酒場で飲みながら、今日は何がいけなかったのだろう、と考えておりました。考えながら飲んでいる間に、男はすっかり酔っ払ってしまいました。そうして店を出た男は、ぶつぶつと文句を言いながら、酔い覚ましに散歩を始めたのでした。


散文(批評随筆小説等) 【童話】ある乞食の話(第一話) Copyright プル式 2007-09-29 01:21:07
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