金木犀
嘉野千尋


  やさしいのか
  やさしくないのか
  雨の日のあなた


  約束の時間に
  遅れたわたしに
  何も言わないので
  カフェオレを頼んだきり
  わたしも黙って俯いている


  雨音と、紅茶の香り
  あなたはいつものように
  グレーのストライプのシャツで
  銀色の細いフレーム越しに
  黙って本を読んでいる


  あなたと初めて映画を観た帰りに
  寄り道をしたカフェ
  あの時と同じように
  季節はもう秋で


  カラン、と音を立てて
  誰かが扉を開けた拍子に
  金木犀がふっと香る
  思わず目を閉じる一瞬に
  あなたが一言
 「金木犀」
  なんて言うから
  視線を追って
  窓の外を眺めてしまう


  やさしいのか
  やさしくないのか
  雨の日のあなた 


  こんなにも苦しく、
  秋が香っている




自由詩 金木犀 Copyright 嘉野千尋 2007-09-24 23:12:49
notebook Home 戻る  過去 未来