くちなし
虹村 凌

壊れなかった夜に
あなたの乳房の中で
浅い眠りに落ちていったのさ
どうしたって壊れなかった夜に
あなたの薄い乳房の中で
夢も見ないような眠りに
落ちていったのさ

朝は狂わないままにやってきた
明け方の空には虹がかかって
少しだけ微笑んだのを覚えてる
どうしようもなく狂わない朝の光で
明け方の空に虹がかかって
少しだけ微笑んだのを
覚えているのさ

あなたの薄い乳房を離れて
狭いベランダに出て煙草に火をつける
明け方は苦しいね
くるくる回りながら落ちていくマッチを眺めながら
独り言みたいに呟いたら

あなたは何も言わずに
雨で塗れたベランダに裸足で立つ

綿埃のワルツを眺めて過ごす
誰かの声が聞こえる
朝を迎えた誰かの声

黒く傷んだ林檎の誘惑
透明な湯船に浮かぶ水蜜桃
茶色い吸殻の匂い
黄ばんだ何枚かの原稿用紙
破れた青いコンドーム
灰色のノイズが写るテレビ画面
ドロップが散らばった机の上

真っ暗な部屋の中に後光の様に差し込む虹
壊れない夜を通り越して訪れた
狂わない朝の大通りの向こうから
後光の様に差し込む虹が

あぁ伝えなきゃ
もう少したったら
壊れない夜も
狂わない朝も
いらなくなる事を

梔子の花が花瓶に刺されたまま
あなたと綿埃のワルツに包まれているのさ
梔子の花が一輪だけ刺さったまま
真っ白いあなたと綿埃のワルツに包まれているのさ


自由詩 くちなし Copyright 虹村 凌 2007-09-01 13:57:55
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