うなり
わら

夏の終わり

りんりんと鳴く虫の音の響く夜の淵

なまあたたかいぬめり気が
頬をなでる



セックスを終えてアパートを出た後の
このにおい

夏のにおい、のような
記憶のかたすみ


痛くなってくことばかりがふえて
こころを掻きむしりたくなるのだけれど

鈍感になっていくのは性器で


忘れたふりをするのが
精いっぱいなんだよ

汗ばむ体に
たましいはとり残されたみたいになってる

立ち止まって、見上げてみても
真っ暗は真っ暗のままだ


どこからか
カレーをつくる匂いがしてきたよう

遠くのほうで
電車のうなる音が聞こえるよう


ふらふらと
街灯の光に浮かびあがったトンボを
追いかけそうになった

まだ、この季節の湿度が重くて
うまく動けなかった

幼き夏のおもかげを求めるように
極楽トンボは消えてゆく


それでも
この、熱を帯びた夜が涼んでゆくのは
たまらなく名残惜しいんだ


なみだみたいな体液と
おなじ温度のようだから














自由詩 うなり Copyright わら 2007-08-31 21:34:49
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