その手を取らないでいる
虹村 凌

「で、どうやって癒されたいの?」
「んー、冷房効かせ過ぎた部屋で添い寝」
「じゃあ別にアタシじゃなくてもよくない?」
「いや、君が良いのだけど。」
「どうして?」
「好きだから」
「それがどう関係あるの?」
「幸せじゃん」
「どうして?」
「だって好きな女と添い寝って幸せじゃん」
「説明になってない」
「どうして?」
「だって説明になってないもん」
「どこが?」
「全部。具体的に説明して。」
「僕は精神的に疲れていて、癒されたい。
 僕の求める癒しは、冷房を〜添い寝であって、
 その添い寝の相手として、大好きな君を選びたい。
 別にセックスも何もいらない。ただ傍にいて欲しい。
 僕はそれで幸せになれるから。これでどう?」
「ふーん。」
「この答えで満足した?」
「あんまりしてない。」
「どうして?」
「自分で考えて、私がどうして満足してないか。」
「よーわからん。」
「考えて。」
「何が不満か言えよ。言えばわかんだろ。」
「いや、不満なんじゃなくて満足してないの。」
「あ、そう。何に満足してないの?」
「だから、それを考えてって言ってるの。」
「何が満足させてねぇかって?」
「そう、考えて。答えが出たら教えて」
「おう。」

そうして僕らは離れて歩く
別に、お互いが傍にいなきゃ駄目になる様な
そんな相互依存した関係じゃない
連絡が取れなくなっても、きっと大丈夫
寂しいけれど、どうせ僕らは大丈夫なんだ

離れて歩くその人の手を、僕は取らないでいる
煙草に火を付けて、大きく吸い込んで吐き出した
煙はまっすぐ立ち上って、空に消えていく
信用してなきゃ、離れてあるけねぇよ



自由詩 その手を取らないでいる Copyright 虹村 凌 2007-08-27 11:36:49
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