こいうた
佐々宝砂

なるようになるさと笑うあなたの
ぶよぶよと肥大した自我が
ゆっくりとわたしの肝臓を潰しにかかる
あなたの肺は紙でできているから
煙草を吸って黒くなったら交換すればいい
でもわたしの肝臓は

わたしはまだ知らないけどあなたは知ってる
わたしには肝臓なんか要らないってことを
わたしの身体のすべては空虚で
わたしはその空虚に巣くうひとつの意味だってことを
あなたは知らずにみえて知っていて

だからあなたは
ぶよぶよと肥大したその自我で
わたしの肝臓を潰しにかかる

***

わたしにくれ
殺戮を 消去を 削除を 死を
今日のわたしのなかに残る
昨日のわたしを抹殺してくれ
あなたを求めているのは昨日のわたし
わたしを苦しめているのは昨日のわたし
だから昨日のわたしを抹殺してくれ
そうしたら今日のわたしは一人で立って
一人で去ってゆく
昨日のわたしと今日のわたしは
冷めたコーヒーとアイスコーヒーよりも
ずっと大きく隔たっていて
だのに同じひとつの袋に入っている

***

必要なんだとわかっているけれど
手に入らないものは入らない
黄砂で汚れた黒いコルベット
フィルター近くまで吸ったシガレット
あなたはわたしのものにならない
いっときあなたを手に入れることはできる
それはわかってる
あなたはわたしを手に入れたがってる
それもわかってる
だからだけどだから
わたしはあなたのものにならない
苦し紛れのジョーク
ぬるくなったコーク
愛するだけならかんたんなこと
優しくするのもかんたんなこと
泣いたり甘えたりするのはもっともっとかんたんなこと
だけどだからだけど
必要なものはいつだって手に入らない
聞き飽きた20年前のロック
しょぼくれたあなたのコック
わたしはきわめて意地悪だから
さよならを爪先で蹴飛ばして立ち上がる

***

ひとつの星が
わたしの膝に落ちるときのために
(そのときはまだ来ないけれど)
庭の薔薇を育てておこう
白い薔薇を
あっさりと白い
一重の野薔薇を
ひとすじの風が
わたしの頬をかすめるときのために
(そのときはまだ来ないけれど)
窓を開けておこう
夜空はぼんやりと花曇り
花なら桜とひとはいうけれど
はらり ひそり
一重の薔薇は静かにちる







しりとりの詩スレより


自由詩 こいうた Copyright 佐々宝砂 2007-08-25 01:54:10
notebook Home 戻る  過去 未来