ワタナベ

あかねにたなびく雲に
コールタールはへばりつき
ぬぐってもぬぐっても
整頓された家々へ
投函されてゆくディーマイナー
遠く燃える山際のノスタルジアが
無言の背中で街並みを責めている

ゴミ捨て場にまとめられた
声にならない叫びは
あの電線にとまっているからすの影
風きり羽根をもがれたからすだ
嘴を真っ直ぐ街の方へ向けている
その上空を模型飛行機が山の方へ還ってゆく

都心を取り囲むように
数多の家々が
かごめかごめをしている
鬼はだれだったか
「忘れられてゆく」
その言葉だけが
いつまでも母親を待ち続ける幼子のように
公園のベンチでひざを抱いていた

うしろのしょうめんだあれ
喧騒にまぎれて絶えず聴こえる
わらべうた
「ふりむいてはいけない」
見上げると、電線にとまっているからす
こうべは変わらずあげたまま
声はからすのものだったろうか

からすは一声鳴き、羽を広げると
さかさまに墜落していった
みずからの影の中へ

これから街はネオンの原色を通過する
プラットフォームに
からすの息遣いが響く


自由詩Copyright ワタナベ 2007-08-22 22:44:14
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