徒歩旅行
なを

ここはまるで火星みたい
しずかでひろくていい天気ですよ


あなたがわたしに仕事をくださったのでわたしはあなたになまえをさしあげて、そうしてふたりして手をつないで、ソトへ 行きました。ほとんどのお話しは疾うに終わってしまっていましたが、わたしたちはへいきで砂まみれで空っぽのバス通り を走ってゆきました。かつて唄いつくされたうた、唄われなかったことのなかったうた、をひとつずつ唄いながら走ってゆ きました。バス通りは晴れた空のしたで永遠のように長く、どこまでもつづくようでした。(うそ、永遠とかって、ありま せんよ)ソトへ。と、わたしたちはつよく望みました。ソトへ。歩いてゆけるところへならどこへでも行こう、と思いまし た。天国でも戦場でも、世界の果てでも。世界は空っぽで、そしてわたしたちにはいくらでも時間はあるのです。


このように草のうえに立って居るとかつてわたしが亡命者であったことを思いだします。
このように故郷を懐かしみそうして泣いたことをそしてその
涙が
ふるい
小説を読んで流す涙の様だったことを


わたしたちはわたしたちの永生に、さいしょの十年で疾うに倦んでしまっていました。
両のてのひらのあいだであなたのてのひらをもてあそびます。最上級生の優等生の女の子のように額を出すかみがたのあな たの、汗ばんだゆびにゆびをからめます。回送バスの窓にはパノラマが燃えるのがきっとうつるでしょう。だれが火をつけ たのか知らない。それはローマ人の都みたいにあなたの、華奢な骨格の檻のなかで燃えていた火です。その火をみてわたし はきっと酷く幸福です。
空白には絵を描いてくださるととても嬉しい。あなたはきっと絵がじょうずで、殊に赤塚不二夫の模写なんかがとてもじょ うずだと思います。じぶんかってな思い入れをします。あなたのなまえはきっとFではじまる。フランチェスカ。水をたくさ んのみます。それはあなたの血です。とてもとても淡いあじのする水。
永遠に永遠に永遠に。
いくら流しても死なない血ならうすいおりもののようなたよりない塩のあじがするでしょう。花が咲いている匂いがする。 満たされているような気がする。酷い幸福。だれもが目を背けるようなありさまでわたしたちはこんなにも幸福でうつくし いのです。
(永遠とかって、ぜったいに)


海までの道は草に埋もれてわたしたちはかつて亡命者であったことを懐かしむ
このばしょはどこからも
どこからも
どこからも

とても遠いねえ?


自由詩 徒歩旅行 Copyright なを 2003-05-08 20:04:36
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