記憶の断片小説・ショートシネマ 「ロイド」
虹村 凌

「5本目の煙草・滲む画面」

僕が彼女の家を訪れてからしばらく、彼女に関する出来事は無い。
僕はライチとモメ事を起こし、かなりテンパっていたので、
ロイドに関わる余裕が微塵も無かったのだ。
その間、ライチとロイドは何度か連絡を取っていて、
二人の間で出た結論は
「虹村 凌は使えない」
だったみたい。

僕がボストンについて二年目まで、彼女に関する記憶は一切無い。
何度か、メールだけは交わしたのだろうか?
チャットをしたかも知れない。
とにかく、僕がボストンに行って二年目の事だった。
僕は学校側の手違いで、寮に入れずに、近くのホテルに滞在させられていた。
少し大きめのベッドで、僕はパソコンを開いて、メッセンジャーを起動させた。
直後に僕は、ロイドとチャットを始めた。

彼女は、失恋してしまった。
大好きな彼氏と別れてしまった。
僕は、彼女の話をずっと聴いていた。
ロイドが彼氏を大好きだった事も、思い出の話も、
冷蔵庫が彼氏の大好きな食材で埋まっていて、
冷蔵庫のふたを開けられない事も、何も食べられない事も。

僕は、この時点で既に彼女に恋していた事が明らかになった。
ここ現代詩フォーラムに入ったのも、この時期で、
投稿した詩を読んでいると、どうやら既にロイドに恋していたようだ。

あぁ、彼女は今、あの暗い部屋で泣いているのだ。
そう思うと、僕は苦しくなって、飛んでいきたい衝動に駆られたのだった。

「あーもう、今すぐ飛んでって抱きしめてやりてぇよ」
「うん」
「俺の胸で泣けよ」
「うん。ありがとう。」

僕も泣いていたのだ。
嘘でも「うん」って言ってくれたのが嬉しくて、泣いていたのだ。

僕は、彼女に恋をしていた。
そして、沢山の詩を、彼女の詩を書いたのでした。


散文(批評随筆小説等) 記憶の断片小説・ショートシネマ 「ロイド」 Copyright 虹村 凌 2007-08-06 22:35:26
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