花火大会の夜に
チアーヌ

昨夜は仙台で大きな花火大会がありました。
わたしは東京からのお客さんと一緒に、西公園という大変混雑している場所の片隅で、たこ焼きとビールを片手に、跳ね回る子供を叱りつけながら花火を鑑賞していたわけなんですが、そのときにそのお客さんにつらつらと思い出話などしていたら、
「それで?それで?で、どーなったの?」
と、なぜかその話が大変好評(?)だったので、ここにも書いてみようかと思います。

花火・・・といえば、東京では何といっても隅田川の大花火大会ですよね。テレビでも中継されるし、もう現場は殺人的な混みよう。それに、東京はヒートアイランド現象も手伝って夜になっても恐ろしく暑いにもかかわらず、暑苦しい浴衣などわざわざ着込んでカップルで乗り込む若者が多いこと多いこと。

ま、そんなことはいいんですが、わたしもそれに「行きかけた」ことがあります。
あれは、もう、・・・・ええと何年前かな、考えたくないな、・・・とにかくずっと前の、隅田川の花火大会の夜のことでした。

わたしはその当時19歳の女子大生で、で、彼氏なんかもいまして、そこそこ仲良くやっていたわけなんです。
で、その、ちょうど隅田川の花火大会の日、わたしたちはデートの予定なんかさっぱりありませんでした。
なぜかというと、わたしは神奈川在住だったので、要するに、遠かったんです。わざわざ隅田川に行かなくたって、って思いますしねえ。
それにその日は、彼氏はバイトが入っていました。
そのとき、彼氏は日本橋三越の恐竜展で受付かなんかのバイトをしていまして、・・・で、たまたまわたしはその日、渋谷に用事があって出かけていたんです。
その用事が終わってふと街を歩いていたら、「半蔵門線」の入り口が。
(あっ、これに乗ったらもしかして、「三越前」まで一本だったよね。そういえば花火大会もあるし、一緒に行けるかなぁ)
ちょうど、彼氏のバイトの終わりの時間が近づいていたこともあって、わたしはそんなことを思いついて、ふとその電車に乗ってしまいました。

今だったらねえ、携帯で電話の一本もかけてから・・・・ってところなんでしょうけど、その頃、携帯なんか無かった(年がバレるなぁ・・・・)。こういうときは、思いつきで行っちゃって、会えなかったらそのときはそのとき、だったんです。
そして三越前で降りて、三越のほうへ歩いていたら。
(あれ?)
わたしは少し離れた場所から、しげしげと前方を見つめました。
ちょうどバイトを終えたらしい彼氏が、浴衣姿の女の子と、駅に向かって歩きながらイチャイチャしているではありませんか!
(・・・・・・・・・・・・・・。)
経験したことがある方はお分かりでしょうけど、こういうときって思考回路が止まりますね。別に、怒りとか悲しみとか驚愕とか、そういう感じじゃなくて、止まっちゃうんです。
そして・・・。彼氏がわたしに気がつきました。
そのときの彼氏の顔は。
正に、
「信じられないものを俺は見た」
ような顔でした。
目を見開き、何度もしげしげと。
わたしも同じように見ていました。
そして。
彼氏が、浴衣の女の子に、なにやら言ってます。で、すたすたとこちらに歩いてきました。
「帰ろう」
彼氏はこちらを見ないでいきなりそう言いました。そして、だだだっと素早く、先に立って歩き、わたしが来た方向へ戻るように、渋谷方面への車両に乗り込みました。
その、空いてること。
逆はめちゃくちゃ混んでましたけどね!こっちの車両はがら空きに近い空き具合。
でも・・・。案外わたしがそう感じただけで、実はそうでもなかったのかな。
電車の中で、とりあえずわたしたちは一言も口をききませんでした。
そのときわたしが思っていたことはただひとつ。
(あー、・・・・来なきゃよかったなぁ)

わたしは運が悪いというかなんというか・・・・。何も疑ってなどいないのに、そういうときに限って!彼氏の浮気の場面に遭遇するということが多い人でした。
何度かあったので、パターンはわかってしまったのですが、そういう時って、別に修羅場とかにはなりませんね。
きっと、どこかで彼の浮気を疑っていて、そう思っているときにそういう場面に出くわしたりすれば、まぁそういう場合って「心の準備」ができてますから、怒ったり泣いたり責めたりなどの「修羅場」になることもあるんだと思うんですけど、わたしの場合、もう全く疑ってない場合が多くて(というよりも、何も考えてないだけなのかも・・・)そういう場合って、なんか止まっちゃうというか。

まっこれは別のときの話なんですが、わたしがある日、彼氏が休みの日(これはさっきのとは別の男)に、ふと家の近くまで行ったもんで、やっぱり夏でしたね、アイスなど抱えて、いきなり彼氏の家に行ったことがあるんです(行かなきゃいいのにね!)。
ドアの前でチャイムを押して、待っていたら、チェーンがかかったままドアがガチャンと開きまして。たぶん、確認せずに開けたんでしょうね、彼はわたしがいるとは思っていなかったみたいで。てっきり新聞の集金かなんかだと思っていたんでしょうね。上半身裸で、寝起きの顔で、・・・でも、わたしを見た途端、別の彼のときと同じように「信じられないものを見た人の顔」になりまして。
わたしは何も考えずにニコニコしてたんですが、彼の様子がおかしいので、ふと目線を下に下げると、玄関には女物のサンダルが・・・・。
そして、目線を上げて、部屋の中を見ると、彼のせまーい部屋のベッドの上には、やっぱりびっくりした顔でこっちをみている女の人が・・・・・。
タオルケットで裸の胸を隠して・・・・。
(・・・・・・・・・・・。)
とっさに、ビックリしすぎたわたしは、
「あっ・・・・。かっ帰るね」
と、おどおどと申し出ました。
すると、
「いやっちょっと待って」
と、慌てたような彼氏。
後ろでは、もうのすごい勢いで女の人が服を着てまして、そしてまもなく、女の人が玄関までやってきて、
「ごめんねっ、ユタカ君、あっ、どうもこんにちは、ごめんねっ」
と、わたしにまで挨拶してくれて、部屋を出て行きました。
わたしもつられて、
「あっすみません」
とか謝っちゃったり。
なんだか間抜け・・・・。
「はっ、入って」
なんだか呆然としてしまったのですが、彼氏に引っ張られてわたしは部屋の中へ。
まるで一瞬の出来事みたいだったのですが、結構時間が経っていたんでしょうね、彼氏のために買ってきた、彼の大好きな「ガリガリ君」が結構とけかかっていました。
それを無言で冷凍庫に入れるわたし・・・・・。
「今の人は・・・・?」
「いや・・・。仕事先の先輩で・・・・」
そんなこと聞いてどうするんだ、と思いながら、ほかに話題もなく・・・・。
「帰るね・・・・」
ぼんやりとつぶやくわたし。
そして冷凍庫にガリガリ君を残し、わたしは彼の部屋を出たのでした。


「あははっ、チアーヌちゃんらしい〜」
そんなことを話していたら、昨夜はすっかり一緒にいた人に笑われちゃいましたけどね〜、でも、わたしの教訓としては、「人間は準備がないとなかなか怒れない」ということがわかった・・・という感じですかね。どっちの場合も、怒りや悲しみはあとからふつふつと湧いてきました。まぁでもそういう性格だから、結構しつこく詩を書いたり小説を書いたりするんだと思うんですよ。その場でガンガン言ったり怒ったりする積極性はないんだけど、けして内に篭りっぱなしにもなれないというかねえ。よく考えると結構いやな性格ですね。暗い・・・・。

何年でもずっと、そのときの感情を忘れずに録画、再生できる!これも特技と思って、これからもいろいろ書いていくことにします。って、あまりまとめにもなってませんね。すみません。


散文(批評随筆小説等) 花火大会の夜に Copyright チアーヌ 2007-08-06 10:56:07
notebook Home 戻る  過去 未来