記憶の断片小説・ショートシネマ 「ロイド」
虹村 凌

「4本目の煙草・ジョナサン」

花火をしたり、少しだけエッチな事をしたり。
そんな風にして、僕らの時間は過ぎていって、
結局は朝方に、ほんの少しだけ眠っただけだった。
僕はその頃、まだライチの方が好きで。
ロイドが鍵を探している事に、埃だらけの二階の寝室で、
窓から差し込む光の中、綺麗な逆行を受けて、ライチを抱きしめたりした。
ライチは平然として、「どうしたの?」と笑う。
僕は突然に彼女が愛おしくなってしまった。素直に、そう言ったけれど、
「ほら、もうだめだよ」と優しく突き放すと、一階で僕らを待つロイドの下に向かった。

その朝、僕は米国大使館にVISA申請の用事があったのだけど、
まだ少しだけ時間があったので、近所のジョナサンで朝ご飯を食べた。
僕は朝定食のようなものを、ロイドは御粥みたいなものを、
ライチは、何か本当に軽食を頼んだ記憶があるけれど、少しあやふやである。

ロイドも結局は、あまり食べられずに残してしまったのを、
僕が食べてしまった…筈。
ライチは少し眠ると言って、机に突っ伏して眠ってしまった。
僕が持っていたパッチワークのシャツを羽織らせたら、
あまりにも似合わなくって。ロイドと二人で笑ってたら、
ライチが目を覚まして…。
これも、三人で過ごした最初で最後の朝なのかな。
あんな風に、もう一度朝ごはんを食べたいなァ。

その後、僕達はバラバラになって、それぞれの用事を済ませたのだった。
僕は滞りなく大使館でVISAを申請してきたのでした。
以降、しばらくロイドに関する記憶が無くなる。
僕は、ライチがどうしようもなく好きだったから。

再びロイドと会うのは、僕がライチに対して、ある程度の怒りを感じてからだった。
ライチが他の男と遊んだとか、寝たとか、それは僕を試す為だったとか、
そんな事が重なって、僕はライチに対して憤りを感じている時期だった。
別段、ロイドに特別な感情を抱いていた訳じゃないのだけど、
少し、気分転換したくて、会いに行ったんだと思う。
本当は、この前の続きがしたかったんだけどね。

メールでロイドの家に行こうかな、と思ってる旨を伝えると、
彼女は二つ返事でオーケーを出した。
僕は喜んで、彼女の家に向かった。

彼女の家のインターホンを鳴らすと、口をモゴモゴさせたロイドが出てきた。
どうやらお昼ご飯を食べてた。たらこスパゲッティだったかな?
何か、パスタを食べていたのを覚えてる。
彼女はご飯を食べ終えると、PS2の電源を入れて、三国無双のゲームを開始した。
コントローラーを握りながら、僕の方を見ないで、
「りょーちゃんが来るって言うの、実家から来るのかとか思ったし」
笑いながら言っていた。実家って福島?んな訳ぁ無いだろう。
でも、その頃の僕は、大半の時間を実家で過ごしていたのは事実だった。
「ねぇ、りょーちゃんもやる?」
僕の方を見てコントローラーを差し出すロイド。
僕はそれをやんわり断って、
「見てるだけで楽しいから大丈夫だよ」と言いました。
彼女は画面に顔を向けなおすと、伊達政宗でゲームを攻略開始しました。
画面の中で、バッタバッタと人が斬られていきます。

突然に、机の上の携帯が鳴りました。
彼女は真っ白く細い腕を伸ばして、携帯を手に取ると、
にっこり微笑んでこう言いました。
「ふふ、私のダンナさまから」
僕は平然を保って(少なくとも、僕は平然を保ったつもりでした)、
にっこり笑って、「そう。よかったね」といいました。
それでも、手の中にあるペットボトルのお茶は、ドクリドクリと脈を打って。

しばらくすると、ロイドはこう言いました。
「あー、私、今日映画の試写会に行こうと思ってたんだった」
「ちょ、おまっ…それなら俺に来ていいとか言うなよっ…!」
…あれ?これは初日の事だったかな?
この会話は、一本目の映画を見た後に交わした会話かも知れない。
とにかく、彼女は少し変な女で、予定を全く言わない。
突然にその後の予定を言うもんだから、こっちはテンパってしまう。

結局、僕らは何もせずに彼女の家を後にしました。
僕の目が、ギラギラしていたからかな?
まさかね。君には、君が大好きなダンナ様がいたからだよね。


散文(批評随筆小説等) 記憶の断片小説・ショートシネマ 「ロイド」 Copyright 虹村 凌 2007-08-05 00:38:53
notebook Home 戻る  過去 未来
この文書は以下の文書グループに登録されています。
記憶の断片小説・ショートシネマ 「ロイド」