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はらだまさる





                                   あたしは、
                         綿のスカートを翻して逃げる。
誰もいない、
 棚田。誰も知らない午後。
                             鬱陶しい。前頭葉を
                        明滅させる蝉の鳴き声だけど、
 まだ刈り取られていない稲穂、
  汗ばんだふくらはぎを傷つける。
                  案外、あたしは必要としていたみたい。
   息を吸い込む音だけが、大きい。
    傷口には、恥じらいが滲んでいる。
                力んだ君の腕が、あたしの自由を奪って
               夏の空は、こんなに高いんだって思った。
    お前のために、作ろうか?
     ミステリー・サークルを。なんて冗談を言いながら
             何だって、少し痛いくらいが気持ちいいんだ。
    制服のリボンを解き、うずまき管の細い部分に少しずつ夢を響かせる。
          あたしの、ぢゃない指が湿った肌に吸いついて
             青魚の骨が、屋根にのっている。
   興奮して瞳孔のひらいた眼は、用心深く空洞を観察して
      まるでヴァレリーの歯に詰まった太陽や華のように。
          安心するまえに、あっさりと閉じられて、
      少女は柔らかい腋下のホロヴィッツを、少し気にしている。
                あたしの黒いところに潜るんだ。
             少女は合皮の鈍い艶の中に、全部消えてしまった。
                 君が知らない、あたしも知らない私。
               朝起きたら、二頭の山羊といっしょに
          君の奏でる音楽の、イメイジを追いかけて
       少女が、ひかりの上で自慰をしてる。
            土と、君の温度の差異に凍えそうだよ。
   汗と琵琶湖の水分と、比良山の稜線がいっしょに蒸発する。
          そんなに怖い顔をしないで。
      拡声器からは下手な和太鼓が、
             こんなに近いのに、すごく遠くに感じる。
     キュービズムの、キャラメル色の、炭酸水。そんな感じで
                  あたしは、君の宇宙になれなくて
       いつもギターみたいな弦楽器を破壊して。
                    君は、あたしの太陽ぢゃなかった。
      ぼくらは、稲穂のなかで(泥のついた皮膚を拭って、)
                  無我夢中で、手に入れようとして
      ぼくらは、稲穂のなかで(ぐづぐづして、抱き締められなかった。)
                       欲しいもの、全部失くした。
      脱げたバスケットシューズのことも、忘れて
                  祭りの賑わいが、幻ならいいのに。
    コラールが小さな穴から羽ばたいて。
                        ひりひりとした痛みと、
                         君の匂いが、あたしを満たして
  時計の針、さえも失くした。
 しっかりと、喘ぐ声を聞きながら。
                          君の名前が、こぼれてしまう。

もっと誰も知らないところへ、
                           私があたしを忘れるように、
                          夏が終わる。





自由詩 FREE FORM Copyright はらだまさる 2007-07-31 12:53:28
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