青年と紙袋
肉食のすずめ

街頭にて老けた青年は紙袋を両手にぶら下げていた
今日買うはずだったモノをどうしても思い出せない
記憶力の低下を彼は極端に恐れていた
忘れたモノの数も忘れていた
誰のための買い物かも
記憶力の低下を彼は極端に恐れていた

赤い日差す坂道で
老けた青年は遅れてなどいなかった
彼以外の者も遅れてなどいなかった
或る者は速く或る者は遅く
しかし皆一様に抜かれていった
赤い日指す坂道は
長い影が揺れるように
全ての距離を測れなかった

光陰矢のごとし
と誰かが言った
無論光は何よりも遅く
誰にも何にも何も伝えなかった

ささやかな
爆発が
彼の立つ排水溝近くで起こった
紙袋の底が抜け
丸やら四角やらが
地表を見当違いに転がり始める
一瞥をくれる人々の間を青年は低い姿勢で走り始めた
露わな立体とともに流れ出す
それも
待ち望んでいたかのように
もう何も怖くない


自由詩 青年と紙袋 Copyright 肉食のすずめ 2007-07-23 15:39:18
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