僕たちは生まれながらに死んでゆく
ワタナベ

頭のずっとてっぺんから
かなたまでつつみこむようにはられた
透明なフィルムの外側を
音もなく星々がすべりおちてゆく
そのすきまに
かすかな灯りがひとつ
はらばいになって停泊している
砂浜にころがっていたコーラの瓶を
オーバースローでおもいきり

おばあちゃんね
肺がんやねんて

もう80過ぎやから
転移することはないねんて

でもね、うんと

病院から出て行ってくれって
言われたらしいから

そういうことやから、ね

コーラの瓶は確かな手ごたえを右手に残して
ほほをなでる風などないかのように
ぐんぐんと回転しながら
きれいな放物線をえがく
オーバースローされるべきなのは
軽い空き缶だったのに
おもいきりふりかぶってもなんの手ごたえも感じずに
ひじに痛みだけをのこして
風にながされて目の前にぽちゃんと落ちる
そんな軽い空き缶

ぼとん、と音がした
かなたに見える灯りの
ボォーっという泣き声が
フィルムの内側で反響して
すべりおちる星々がゆがんで見えた


自由詩 僕たちは生まれながらに死んでゆく Copyright ワタナベ 2007-07-18 20:24:14
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