追憶の夜景
あずみの

窓の外眼下に見下ろす名古屋の街は
遠く遠くきらきらと明りを燈し
瞬いては揺れ闇夜に煌々と浮かび上がり

そのひとつひとつの灯に想いを馳せるとき
忘れていた瞬間がふと思い浮かぶのです

あのとき共に見た夜景と
隣にいたあの人の服越しの体温まで
場所も時間も遥か遠くになってしまってなお
こんなにも鮮やかにあの日の空気の湿度まで
思い出されるのです
交わした会話の内容も着ていた服も覚えていないのに
素足のミュールから見えるペディキュアの橙色だけが
薄闇にくっきりと見えたことは記憶しているのです

忘れていたかった思い出
忘れようとしていたこころの痛み
あの人のこころにもうわたしはいないだろうに
わたしばかりが過去からの情景に
古傷を痛めるのです
僅かの甘さと幾ばくかの寂しさを伴って
少しのあいだわたしは追憶に耽るのです

眼下に見下ろす都会の灯かりは
今日も何知らぬ顔で遠く遠く煌いて
わたしはひとり感傷に浸るのです


自由詩 追憶の夜景 Copyright あずみの 2007-07-17 14:05:40
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