盆ノ夜 
服部 剛

今日は盆の入りなので 
夜家に帰り門を開くと 
家族は敷石の一つに迎え火を焚き 
両手を合わせ
揺れる炎を囲んでいた 

初老の母ちゃんが 
「 お爺ちゃんがいらっしゃるわよ 」 
と自然な口調で言うので 
両手を合わせたぼくは 
( ごゆっくり ) 
と心に呟いた 

まだ会ったことの無い 
ぼくの「お爺ちゃん」は戦後間もなく病に倒れ 
初老の親父が子供の頃に 
「 お父さん、お父さん・・・! 」 
と叫んだのも虚しく 
無念の想いでこの世を去った 

腕で涙を拭う子供の頃の親父が 
曇りガラスの前に立つと
ぼんやりと白服の人の面影が 
夜の闇に浮かんでいた

一人遅れて食べる夕餉の時間 
母ちゃんの出汁だしの滲みた 
煮物を箸でつついていると 
箪笥の黒い引き出しにしまった 
アルバムを思い出し 
「 佳日 」と書かれた厚い表紙を開くと 
一枚の大きい白黒写真が貼られ
僕より若いお爺ちゃんは仏の顔で
花嫁姿の婆ちゃんの横に立っている 

振り返れば
親父が運転する車の前に
飛び出したバイクに乗る人を跳ねた日も 
親父の勤める会社が倒産した時も 
いつも紙一重のところで
助かって来た我が家 

今日も
なんでもない一日を過ごした夜に一人 
( お爺ちゃんありがとう・・・ )
と心に呟き 
母ちゃんの
煮物の味をかみしめる 





自由詩 盆ノ夜  Copyright 服部 剛 2007-07-14 01:29:33縦
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