イメージ・猫
ワタナベ

どこまでも澄んだ音色で
鳴る笛に
すすきの野を一陣なでてゆく風

音色に誘われて4匹の猫が
野のくらがりから
躍り出てきて
おおきなウッドベースの上に飛び乗る
4本の弦の上でのんびりとしたステップの猫

ささくれた神経をいたわるような4つの低音が
眼下に広がる街なみの背中をそっとなでて
ひとつひとつ街に舞い降り
閑散とした駅のプラットフォームで
シャッターの下ろされたクリーニング屋の前で
北極星を中心にぐるりとまわってゆく砂浜で
そして寝息をたてる僕の部屋の隅で

プラットフォームでひとり動き続けるのっぽの時計が
静かに時を刻むのをやめると
猫は一匹ひげをぴくぴくさせて
野のくらがりへ消えてゆく
クリーニング屋の前で奏でられる低音に
店の明かりは紛れて
灯の落ちた街並みの風景に溶ける
砂浜は静かに回転をやめた
その度に猫はひげをぴくぴくさせて
一匹、また一匹と野のくらがりへ

僕は夢を見る
部屋の隅から聞こえるウッドベースの鼓動の夢
それは一番太い弦の鳴らした夢で
同時にすべてが凝縮された街並みの夢

低い、ささくれた神経をなでるような音色で
鳴る夢に
すすきの野は凪いで

四本の弦のウッドベースの上で踊る
一匹の猫の夢


自由詩 イメージ・猫 Copyright ワタナベ 2007-07-04 04:50:42
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