愛して
水在らあらあ






The world owes me nothing. I didn't ask for beauty and I wasn't expecting it. But there it was. It didn't have to be beautiful but it was.

                        ―Laurel Luddite



 生まれてきたときは世界が美しいなんて期待していなかった
 でもこの夕焼けは それを受けて虹色にまどろむ海は世界で
 その中ではしゃいでいる子供たち
 抱きあって波の上で触れ合う恋人たち

 美しさは期待していなかった
 それでもこんなに美しい光で
 その中でカモメが鳴くようにあたりまえに
 人々は笑って

 大きなパストールが俺に近づいて
 匂いをかいで
 日に焼けたわき腹をなめた
 夕日に濡れた彼の横顔は野生で

 小さな男の子が波打ち際を笑いながら走って転んで
 遠くからおばあちゃんが杖ふって呼んでいる
 おばあちゃんの隣には当たり前のようにおじいちゃんが居て
 上着を脱いで
 おばあちゃんの肩にかける
 日が落ちて
 俺は服を着た





Todo vivimos bajo el mismo cielo, pero ninguno tiene el mismo horizonte.

                        ―Konrad Adenauer



 自由がいいなら
 血を 汗を流しな
 それ以外 嘘だから
 一握りの種をもって
 おまえの肌に合った大地を見つけて
 そこで恋人と生きていきな
 俺達はまだ幼くて
 幼い俺たちの自由は
 幼い同士の共存の中にしか
 ないから
 なくていいから

 いつだって輝くのは水平線で
 それは君を隠していて
 俺はそれを目指して歩いた
 でも隠れている君は
 まったく違う地平線を見つめていた
 ここに俺はいたのにね
 いつだって海の果てに俺はいたのに
 ひどい勘違いだね
 冒険して
 遠ざかって





All we want is a world big enough to include all the different worlds the world needs to really be the world.

                ―Subcommandante Marcos



 東ヨーロッパの浮浪者が教会の入り口で
 ブリックパックのワイン飲んで吠えて
 その向かいの広場では南アメリカの移民が
 いつも通り家族連れでピクニックしてて
 その目の前で褐色のジプシーがゴミ捨て場をあさって鉄を集めている
 中華料理屋の職人たちは食材を買いにカート引いて歩いて
 その目は空を見ない 一度も
 クリスティーナエネア公園では地元の幼稚園児たちが
 きれいに整えられた芝生の上で転げまわってっている
 引率は知り合いの波乗りの姉さんで
 俺は今日の波の様子を伝えに行こうと立ち上がる
 スペイン語学校から
 USAのがきたちがわいわいがやがや言いながらあふれ出して
 俺はその中を横切って彼女に近づく
 二人で同じ波に乗って
 広げた手が触れ合った思い出は夏が来る度によみがえって
 それでもこの日差しの中で
 咲き乱れるあじさいの前で
 子供たちの引率している彼女には
 カモメよりも紋白蝶がよく似合う

 この空の下で この海辺の街で 全ての人が一斉に武装解除する
 空と海の青さにやられて
 もういいやって みんなおもって





No one sees a flower really. It is so small. And to see takes time, like to have a friend takes time.

                        ―Georgia O'Keefe



 丘の上で きのこを集めていた
 初めに気づいたのは俺で ヴィトリオが加わって
 猿が人間に進化したのはきっとこのきのこのせいだぜって
 もう三十キロ歩いてる足で 丘の上をさまよって
 キャロラインとメラニーが来て なに探してるのって
 今夜のパスタのきのこだよ 一緒に探そうよ
 メラニー
 明け方 巡礼宿のキッチンで
 西洋文明では考えられない美しいメロディーを歌っていたメラニー
 俺を呼んで はにかんで
 ねえ この花の名前知ってる?
 知らないならいいわ
 寝ましょう この花を 二人の間において

 日に焼けて 乾いた顔を撫でる歌声
 時間は 無限で 日は いつまでも傾かずに





Ama y haz lo que quieras.

                        ―San Agustin


         
 あの日
 石油にまみれて死んだウミスズメの為に
 おまえが流した涙の一粒 
 巡礼道で俺が 死んだふくろうの為に流した涙
 君が流す涙
 あなたが流す涙
 みんな海に帰って
 海は涙になって
 そこからみんなまた始めればいい
 塩っ辛いのは少し我慢して
 俺たちの孫の世界には水が透き通るように


 愛せ、そして自由に生きな





It may be true that there is no God here, but there must be one not far off.

                        ―V. Van. Gogh



 一握りの種を握り締めて
 美しい草原を目指す
 恋人と二人で
 美しい草原を目指す
 神様に会いにゆくのね私たち
 ああ そうだよ もうすぐだよ
 君のドレスは夜空の星屑を集めて
 このナイフは俺たちを生かすためにだけ働く
 森の中で 愛し合って
 たどり着く頃には子供が生まれるかな
 そうしたら神様に名前付けてもらおう
 君に似てきれいだったらいいね
 あなたに似て強かったらいいわ

 嘘がつけなかったらいいね
 俺たち二人に似て





If we have to lose this world, if there is anyone left to speak an epitaph, let that be it. It didn't have to be beautiful. It was.

                        ―Laurel Luddite



 日が落ちて 俺は服を着て
 シャツが焼けた肌に痛くて

 夜の海が砂浜を愛している
 ブロンドの長い髪を潮風に任せて
 ビキニの下だけで さっきのパストール連れた女が浜辺を散歩している
 うらやましいくらいの主人だな
 もうちょっと友達になっておけばよかった
 カモメたちが連なって帰ってゆく
 きっと子供たちが待っているのだろう
 浜の向かいの通りではケバブ屋さんのモハメッドが
 三人の妻と急がしそうに肉を切っている
 明日は波あるかな
 早起きして来てみようかな
 夜の海は疲れ果てた砂浜を優しく撫でて
 朝の海は俺を引きずって叩く
 そのどちらでもいい
 そのどちらもきれいだから
 こんなにきれいじゃなくてよかった
 でも世界は
 美しくて

 ありがとう 俺は、

 愛して、自由に生きる













自由詩 愛して Copyright 水在らあらあ 2007-07-01 20:30:36縦
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