あし。
もののあはれ

最近どうにも足が疲れて疲れて仕方が無いので病院に行くと
一応疲れていますねと診断された
一応と言う言葉にむっとしたが
いやそれは最初から分かっているのですが
原因が分からんから調べて欲しいのですと尋ねると
それは全くもって意味の無い事だと切り返された
いやいやいやいやそれは可笑しいだろうと反論すると
それではお大事にと診察を完了された
三時間待って三分の診察だったので
尚更気に食わなかったがどうにも気が弱いので
諦めて診察室を出た

次の順番の方どうぞと中から声がして
体格のいい男性がすれ違いに入っていった
私は重たい足を引きずりのっそりと待合室に向かうと中から
最近どうにも疲れて疲れて仕方ないのですがと聞こえた
ふふふ私と一緒だな
訳のわからない理由で追い返されるぞと思い立ち止まって
中の会話に聞き耳を立てた

いやあそうですか
最近暑いですからね
何かほかに気になる点はありませんか
膝にむくみ等はありませんか?

私とは随分と扱いが違い丁寧に診察する声が聞こえた
それでは念の為点滴をしておきましょうと医者の声がした
気弱な私でも余りの対応の違いにさすがに頭にきて
診察室に引き返しドアを開けた
するとびっくりして目を丸くした医者と
ベッドに横たわる男性が私のほうに顔を向けた

どうかしましたか?

医者がそう私に尋ねた
私は声が出なかった

ベッドに横たわる男性の膝から下が両足とも無かった
ベッドの下には義足がチョコンと二つ並べて置いてあった

いや忘れ物をしたと思いましたが勘違いでした
すいません

私は苦しい言い訳をして診察室を後にした
何とも言えない情けない気持ちで病院を逃げるように出ると

空が青かった

私は走った
ひたすら走った
疲れなどは消えていた
いやそもそも疲れてなどいなかった


地に足のついていない頼りない己の足であったとしても
いける所まではせめて
私はいかなければならないのだと心に誓いながら走り続けた








自由詩 あし。 Copyright もののあはれ 2007-06-30 21:39:18
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