ブルーバス
虹村 凌

もう百円玉じゃ温もりは買えなくなった

冷たい缶コーヒーを握り締めて
さめざめと泣いたり出来れば
明日の朝は幸せなんだろうか
どうせなら何処か遠くで目覚めたくなって
小さい窓から這い出して
薄明るい夜のとばりの中へと踏み出した

行き先がわからない青いバスが止まったから
運転手さんに頼み込んで乗せてもらった
賄賂を贈って見返りに貰った旅券で乗った
赤いスタンプが滲んで弾けて
バスはドアを閉めて走り出した

夢見が悪くて何度も目覚めた
硬いシートなのにまるで包まれるように
うずくまって眠っていた事にしばらく気付かなかった
涎かと思っていたら涙だった事にも気付かなかった
禁煙マークを焦がしたのがこの煙草だった事にも気付かなかった
バスはとっくに止まって運転手さんも降りていた事にも気付かなかった

百円玉でぬくもりが買える自動販売機があった
何時も飲んでいる珈琲は置いてなかった
壊そうとしたら既に壊れていた

百円玉を置いて錆びた缶コーヒーをひとつ

これからどれくらいかかるかわからないけれど
いろいろなことをおもいだしながら
いえにかえろうとおもいます

バスは妊娠した少女を轢き殺して


自由詩 ブルーバス Copyright 虹村 凌 2007-06-24 01:23:58縦
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