春に過ごす
mizu K



目のまえがぱあと明るくて足もとのきんいろの草っぱらがどこまでも続いていると思ったら
それはそれはわたしの夢のなかでのできごとで
目をあけるともうお日さまはずいぶん高いところにえっちらと昇っておられるのでした
せっかくの土曜日の晴れなのにもったいない
三文損したかなあ、えーい、二束三文がなんじゃー
今日は晴れててごきげんだからわたしは気前がいいんじゃー
おらおらー、くるしゅうないくるしゅうない、もってけもってけー
って寝ぼけた頭でごにょごにょ言っていたら
いつのまにか眠気をもっていかれて目がすっかりさめてわたしは
床の上に素足でぺたんと着地して、ぐうーんとのびをしてついでにあくびもひとつしたのでした

今朝はなんだか静かですねとけげんに思っていると
窓があけはなたれていて空の色
ざざざとハルニレの葉ずれの音
ざっくりめのカーテンがふわふわふわりん
どこからかトイピアノの音がぽろぽろきこえるよ
今年もハルニレの咲く季節が巡ってきたのですけれど
いつもいつも花を見逃してしまって
気づいたら知らぬうちに葉がわんさか繁っているのです
昨晩は手紙を書きかけてそのまま眠っていました
サイドテーブルにご丁寧にペイパーウェイトで置いてあるのは
きっと窓をあけて出かけられた人の気遣いなのでしょう
今は
風のすうと通る部屋にひとり、明るい光で床の影が踊っていて
食卓のリネンとシリアル、ミルク・ピッチャー、琥珀のはちみつ
まるで魔法であつらえたように朝ごはんの仕度ができていて
うむむ、三文のうち一文くらいは残っていたのでしょうか

ベランダの鉢にはどこからか種がふわんと着地していたもようで
セイヨウタンポポのきんいろな顔があって
クリスマスに買った紅いポインセチアが寒さに弱いのを知らなくて寒い冬の夜、外で凍えさせてしまって
そのあとそのままにしていたのでした
春になったら何か植えようかなあと思案していましたが
そうしたらいつのまにかこのタンポポくんがひょっこり居ついてしまっていたのでした
ずっといていいからねー、ひっこぬいたりしないからねー
ここはわりと日当たりいいんだ、君はいいとこ選んだね、かしこいかしこい
それから美人のわたしを毎日眺められるんだぞー、かしこいかしこい

指にはまだすこしクレヨンの匂いが残っていて
ゴッホを模写というかなんというか、まあ「種まく人」をじいーっと見ていたら
てきとうにうかんできたきんいろの草っぱらを
クレヨンでぐりぐりスケッチブックに塗って
そのままの手でマドリッドの友人に宛てて
手紙を書きはじめてそれからしばらく文面
をうんうん考えてあー綴りがわからんと辞
書を引いてうんうんうなりながらまくらを
頭からかぶってうんうん言っていたらいつ
のまにかぐうぐう寝ていたもようでして/
夢のなかにきんいろの草っぱらがでてきたのは
このできそこないのクレヨン画が意識下に影響を及ぼした結果ではなかろうか
と思うのですがどうでしょう

今日は土曜日で
お日さまはまだ南東にいて一日はまだ十分あって
光が窓からあふれてあふれて、ふるふるあふれて
今日!いま!そして、いま!
なにか新しいものが、なにか!生まれそう
そんな予感がするのです
秋に蒔かれた種は寒い冬をのりこえて、これからきんいろに輝きだしていきます
わたしは、これからハルニレとタンポポくんといっしょに
手紙を書き終えて宛名の綴りをこんどこそまちがえないようにして
光にあふれる春の日を過ごそうと思うのです




自由詩 春に過ごす Copyright mizu K 2007-06-23 08:29:40
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