意外と遠くまで跳ぶ
床野トイツ

よく見る夢の中で
会ったこともない自分が
苦い微笑を湛えて
母親のようにやさしく
手を振っているのが
そのまま来いということなのか
戻ってやりなおせということなのか
遠くてよく見えないので
確かめに行こうとおもっている

ときどき夢を真似て
会うこともない自分に
せいぜい悩むがいいと
姉のように意地悪く手を振るのを
洗濯場のいちばん近くに佇む
電信柱にいつもとまって
こちらを監視している大きな鴉に
あざ笑われたりしながらもやめない

覚悟はできてます
泥田で動けなくなったら靴を捨てればいいだけのこと

そうおもいながら
ほんとうに捨てるかは別と
舌を出すような根性がありそれは
理不尽に耐えるというあれではなくて
もっと自由で発芽のよう

全身全霊をへなへな
のらりくらりと命がけ
ただそれだけで意外と
遠くまで跳ぶのだ


自由詩 意外と遠くまで跳ぶ Copyright 床野トイツ 2007-06-19 04:07:39
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