砂のこえがきこえるように……
輪橋 秀綺

ゆーゆゆ ゆゆゆゆ ゆー ゆゆゆ ……
                 旋律を歌ってみても ひとりぼっちだ


沖から岸へ 塗りつぶすように寄せる涙の成分は
平泳ぎなどでおだやかに泳いでいるぼくの体に蓄積する

なんだか 切ない

昔会った大切な誰か のことを忘れてしまった 
ということだけを覚えているようなもどかしさで
岸に戻ろうとする頃には 慣れているはずの泳ぎが 少しばかりぎこちない

浜に上がったぼくはそのまま海を見ていた
ときどき風が吹いてくると正直冷たい  
それでも日差しは強く 砂は暖かく

こんな日には蟹やらが 何を探しているんだい などと云いにくるだろう

そうしたらぼくは 何を探しているのかを知りたいんだ と答えるしかない

どこぞのドラマで 海に投げられた指輪を探すような
そんな単純なものであって欲しくはなかったから
同じように
どこぞの小説で 手紙の入った瓶をそっと流すような
そんなロマンの追求には辟易していたから

だからぼくは
暇になると海で泳ぐけれども 
浜に上がるとそのまま寝てしまう
ぼくはいつも思う 馬鹿は風邪を引くんだって

夏という季節にも 雲は流れていてくれるんだな
ぼくは青に囲まれて そこらの音を聞いていた
不規則なはずの音たちはいつしか旋律になって
ぼくの体を満たすのだ 

孤島という身の哀しさで奏でられるそれは既にエレジア ―― 歌だった
もしかしたらすごく音痴だったかもしれないけれど
僕は嫌いじゃない 決して 嫌いじゃない


ひとりぼっちのヒト同士なら もしかしたら親友になれるかもしれない
なんてことを漠然と考えながら
明日の学校の宿題にちょっとずつ苛まれながら

僕はうつ伏せになって 結局 砂と接吻した
裸をあたためようとして 口づけたそれは 
しょっぱくて なにより 苦いのだ

ヒトのだったら 甘かっただろうか
―そんな思いに 傾きながら
体 意識
やわらかく溶けていく


自由詩 砂のこえがきこえるように…… Copyright 輪橋 秀綺 2007-06-16 00:30:09
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