奇跡について
佐々宝砂

さよならを言ういとまを
あなたはくれないだろう
私の知らないうちに
あなたはどこかに消えるだろう
夜空の星はいつまでもそこにあるわけではない
青空の太陽はいつまでも輝くわけではない
念のため言っておくが
雨が降るの雲が晴れるのという
大気圏内の話はしていない
夜が来るの朝が来るのという
地球規模の話もしていない
この宇宙は常に夜であって
ささやかな光が
ところどころに細々とひかるだけなのだよ
そんな場所で
私とあなたが出会ったのはおそらく奇跡だが
奇跡というものは
我々が考えるよりたやすく起きるものであって
しかし奇跡はやはり奇跡であるからには
持続しない
そう
私とあなたの出会いもおそらくは
だから私はあなたと離れているあいだにも
あなたと出会っているあいだにも
考え続けている
さよならを言ういとまも
愛していると言ういとまも
あなたは与えてくれないだろう
それでいいのだと思いながら
空を見上げる
さっきまで出ていた洪水警報は解除されて
雲間から月が見える
私は地球大気圏内のイキモノである
あなたがそうであるように
私とあなたが
生殖可能な同種のイキモノであったこと
それすら本当は
奇跡的なことであったのだから
この宇宙の奇跡のひとつとして数え上げておこう




自由詩 奇跡について Copyright 佐々宝砂 2007-06-08 20:27:50
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