夫婦
小原あき

(日本は夜でも宇宙から見るとはっきりその形がわかる)
なんて思いながら
トイレに行く
その廊下で
隣から
義理の叔父と叔母の
喧嘩の音がする
わたしは舅のことを想う

嫁いで二年目
わたしの姑は
もう十年間この世にいない
その姿も
その名残もない家に
嫁いできた

どうしてだろう
夫に
そして、舅に
新しい親戚の影に
姑が居る
だから
わたしは
写真でしか知らない
姑を
毎日感じている

舅は酒を飲む
わたしは毎日
晩酌の相手になる
たわいもない話をする舅の背中に
いつも姑は
寄り添って
わたしと話をする
たぶん
姑が見えるのは
わたしだけかもしれない

いつも
わたしに語りかける舅は
淋しそうで
隣の叔母が
叔父の陰口を言ってくるのを
ただ静かに
だけど淋しそうな
背中をして
聞いている
その背中をさする姑を
知らないままに

こんな背中に
夫をさせたくない、と
もし、ひとつだけ願いが叶うなら
そうお願いしよう

舅の背中で
にこり、と
姑が笑いかけてくる
傍にいることは内緒よ、
そんな顔をして

そして
そんな姑も
少しだけ
悲しそうにするのだ

死んでしまっては
いけないと思った
どんなことがあっても
二人で生きていたい

死んでしまっては
寄り添っていることも
気づかないで
すれ違いに
悲しい思いをする


(でもね、お義母さん
わたし
お義父さんとお義母さんのような
世界が違っていても
寄り添える夫婦って
素晴らしいって
思っています)


そう言うと
姑は
少しだけ
本当に笑ってくれたような
気がする


いくつもの夫婦がある
喧嘩ばかりの夫婦
死別しても寄り添う夫婦
年老いても愛し合う夫婦
まだまだ半人前の夫婦
夫婦の数だけ
形がある

日本は夜になっても輝いている
ひとつひとつの
夫婦という星を乗せて





自由詩 夫婦 Copyright 小原あき 2007-06-07 14:29:49
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