抹茶佳人
佐野権太

耳から
抹茶がこぼれてしまうという
朝になるとシーツは
たっぷり緑を含んでいて
洗うたびに
深みを増していくのだという
(この時期だけなんですの

さして困ったふうでもなく
さらさら湯をそそぐ
指さき

たわいのない軽口に
(ほんとうにそうね

くすくす揺れるうちにも
こぼれる
座卓の照り返す鈍い光に
はじける
その
鮮やかな粉末に
みとれていると
ねたように
つ、と
すくいとってしまう



開け放たれた窓にふくらむ
風をみつめている
その、後れ毛に
なめらかに撹拌された
初夏がそよぐから
私の頭の
斜めうしろは
まろやかに泡だって
(また、いらしてね
なんて
淡すぎるささやきを
つい
聞き逃してしまう







自由詩 抹茶佳人 Copyright 佐野権太 2007-06-01 19:00:56縦
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