千住
mizu K



唐水車の水ぎわの
苔むす屋敷のはしっこに
住んでおります
ございます
子どもは巣立ちて
夫は他界しまして
天上の人でして

疎開した猫からの便りにありますのは
ときどき天井から
音楽がきこえてくるそうなのですが
外耳道が青函トンネルくらいの長さあるのか
オレには聞こえないアルよ

娘がひとり
木のうろに
隠れてもう幾年に
なるのかならないのか
オレはもうボケててわーからねー
わからないからアルル
、君んとこに住んでイルね

昼さがりに
鳥かごを編んでおりますと
すりガラスの向こう
チンチン電車が
かすれた声で/
つぎはー
せんじゅー、せんじゅー
なんぼうせいたいいんととー
おのののここまちゆうびんきょくにー
おおこしのかたははー
おおなり由子ー
せんじゅー、せんじゅー

ひと昔まえは
大名行列が
きらきらきらきら
しばらくすると
その行列めがけて
ぱらぱらぱらぱら
こんぺいとうが放りなげられて
こんぴらさんのおみこしの日
万国旗がずらずらずら

ですから母はかぎ鼻で
異国ふうの顔立ちですから
いーじんさんにー
つれさられー
お妾さんとしてわびしい一生を
過ごしたわけではなく
お外を逍遥なさると近所のこどもが
バアムクー、ヘヘーンー
と敬礼するので
それは違うわこうやるアルよと
ハイルヒ、トララー
冗談半分に仕込み
その結果
師範学校上がりの
新任のうら若きまちこ先生は
ご卒倒なさるのでした

他界中の夫はときどき
唐水車のてっぺんにちょこんと帰界すること
があって姿がときどき奇怪でなかなか会う機
会もないのできっかいな夫ですがおはよよよ
ようごじゃいますなんてしどろもどろで夫と
離婚騒ぎで家庭崩壊しかけて決壊しかけた関
係にちょっかい出してきた疎開しているちょ
はっかいではなくそれはおそらく猫ですが/
旋盤加工工のプレインが
ぶぶーんと青空を旋回
している田舎の風景オン/オフ
スロットル
視界深度が青くなってアルよ

(今朝の見出し
千住で母殺し、毒殺)

ビゼーがアルルで
女としけこんだかどうかは
不確かでアルルが
オレの娘は木のうろにいるる
オレという人称は
この地方の女が日常で使う
ので常であるのですが
娘はひととき都会に出奔して
ストリップでスッポンポン
になっていたところを
難波さんにナンパされ
結婚して離婚して
難波さんスッポンに
/をかまれた経験が
あるそうですが
娘は口にファスナーがついているので
難波さんのファスナーをじじじと
おろして参拝したかどうか
実際のところは不明でアルルの女よ

母はアル中で
昔の津軽海峡ぶっ通し冬景色大酒飲み大会で
優勝してしまった既に他界してしまった父に
ほれてほれられて懇意になって
あとで私の夫にもフォオリン・ラヴして
―つまり離婚の原因は母なのですが
苔むした唐水車のある
壊れかけの屋敷のはしっこに
ちょこんと座っていて父と話している
気になっている母をみると
不憫であり
けれどもやっぱり許せないので
木のうろに隠れるふりして
機会をうかがうオ
レ、は
今朝のカフェ・オレに
凄惨な光景を想像して
カリリと歯がみする
のです





自由詩 千住 Copyright mizu K 2007-06-01 05:45:43
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