厳しさと厳しさとキューピーマヨネーズ
土田

自らのベッドで夜が襲ってくる日
雨はかなしいという詩人と
孤独はさびしいという詩人の
穴という穴にキューピーマヨネーズを
入れたくなってしまった自分は
果たして自らが望んだ本当の自分なのだろうかと
マスターベーションを勤しみながら考えてしまう日

たぶんそれはいちばん長く突きあっていた女に
日常のすべてを流し込んでしまいたい日かもしれない

何かしらのフィルターの掛かったAV女優の
棒読みの淫語を聞くと我慢汁よりさきに
ただフィルターという言葉を
使いたかった自分自身のあわれさに
なみだが出てしまう

血管のスイッチが切れたように
どこか深いところから

二週間前のあたしとどっちがいい?

花美の生き霊が部屋の隅で
小声で叫んでは
体を震わせ
突っ立っている

花美の体は手で触れられるような
リストカットと薬漬けにまだら模様で飾りつけられていて
思わず手を伸ばすと今日の出来事が
走馬灯ではなくフラッシュバックでもなく
巻き戻しのボタンを押すかのように巻き戻る

「あなたが死にかけているとき
 あなたのことを考えないでいいですか
 あなたから遠く遠く離れた恋人について考えても」

今日学校の詩の授業で配られた
詩のなかに出てくる
谷川俊太郎の詩を思いだす

コンポをつける
ニルヴァーナのリチウムがかかる
カートがかすれた声で叫んでいる
カートもドラッグと精神病を患ってショットガンで自殺した

花美はまだ帰ってはくれない
雨がかなしくてもいい
孤独がさびしくてもいい
だから帰ってくれ!

いつのまにか
花美を詩にしていた
花美が詩だった
詩が花美だった

冷蔵庫のなかで
ひとり冷気に打ちひしがれている
キューピーマヨネーズを
ちゅうちゅう吸って
原稿用紙を花美に投げつけた
かべがカサっと鳴いた


自由詩 厳しさと厳しさとキューピーマヨネーズ Copyright 土田 2007-05-28 21:57:52
notebook Home 戻る