醜い雲
はらだまさる






ああ、今日も雲が浮んでいる。
青青と吟する空の重さに酷く狼狽し、暮れへ連ねてあるく。
おまえは「きょうもええ天気やったね」と暢気に
両手をうえに、背を反らせて伸びをする。
おまえにはあの雲が観えてへんのやなあと知って
少しだけ安穏とした気持ちになり、
きょうは外食でもしよか、と言うてみたりすると
おまえは眼を輝かせて、嬉々とする。
喘息で副鼻腔炎のおまえは、臭覚がないことに落ち込んで
味覚もほとんどないから料理してても、いつも不安で
偶に苛苛をぶつけてくることがあるけど、
そんなとき、これからもずっと
俺がしてやれることがなんにもないことに
理性で捏ね上げた憂鬱が砕けそうになることがある。
俺は俺で生きることに精一杯で
それはきれいごとやなくて、毎日エズいて
大好きな酒と煙草を控えても
胃が、きりきりと痛む。
これ以上近づくと、二人とも壊れるやろう。
そやけど、好きなんや。
一人では生きられんのや。
俺も、おまえも。
余りにも弱い。


俺の大好きな人が
「雲をずっと見つめて消えろ、消えろって念じながら
指で擦って、三分くらいしたら消えんねんで」
って真剣に言うてたけど、信じるか?


俺やってみたんやけど、
三分間、集中しておんなじことをずっと念じんのって
結構長いねん。で、三分もたへんかった(苦笑)。


信じる、ってなんなんかな。
力、なんかな。


信じるよ、
俺は。




この、
醜い雲の
向こう側を。









そやから、
ひとりが怖かったら
気がすむまで俺の中で泣けばいい。
















自由詩 醜い雲 Copyright はらだまさる 2007-05-25 20:37:18
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