スライド(抄) 5

  5

ささやきとゆめとで満たされている

乳白色の匂いが駆け巡り
スカートの裾と共に影がゆれる

したたかに群れるとりどりの手足に
手招かれるのは
おなじ匂いをさせる 少女

この繭の中のような空間で
ささやきあい
笑いあうのは
少女達なのに
皆 互いの
ほんとうのなまえを
知らない



 

あらゆる嘘を吐いて
少女は
自分と世界をないまぜにする


触れるほどに
輪郭を肥大させる少女
暗やみを怖れ
夜の帳に刃を入れようと
あらゆる嘘を吐く
あいする と言う
夜明けに
なにもかも映し出される
寄り添う隙間が
あらわになる



 少女とは
 とどまれない永遠
 知ってしまうことを
 止められず 泣く



 千切られて
 線になる
 少女を軸としたスカートの裾が
 まるく ひろがる



脱ぎ捨てられない
曲線でできた少女は曲線を
自ら脱ぎ捨てられない
隙間だらけの世界に
曲線をらくがきながら
太陽をなぞりたがり
ひかりの線に
細く撓る指を焼かれる


ああ また
あいする
と言う

ひどい嘘を吐く度に
ひかりに突き刺され
少女はまたひみつを知る
ことばは千切られ線になり
スカートの裾が曲線を描く



 

スカートの中
うまれる
たくさんのひみつが
少女をまた曲線で汚す
少女の輪郭は濃くなるばかりで
  (知ってしまった少女はまだ知らぬ少女を俯瞰
   しまだ知らぬ少女は多くの少女達に気づかず
   に少女の中を迷ったまま時に刃をその喉元に
   突き付けたがる
  とどまれない永遠は少女という輪廻
  脱ぎ捨てられない曲線)
ひろがるスカートから
あふれるひかりに
うまれたい
うまれる
うまれてくる
少女の輪郭が
押し破られる
あふれる
ひかり
とどまれない
ひかり
うみたい
うまれて
うみたい
うまれる
うまれる
 (だれも
  少女のなまえを呼ばない
 (呼ばないのではなく)
  だれも
 ((呼ばれるべき彼女も))
  少女のほんとうのなまえを
  知らなかったから)
それでも
生きようとしていた
さようならが
いつか
少女の耳元で囁かれた時も
たしかに
生きようと
うまれようと
うまれる
うまれ





少女の 夜明け
始まりとも終わりともつかない
声をあげる





















自由詩 スライド(抄) 5 Copyright  2007-05-13 00:53:15
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