春と夢を描くはなし
soft_machine
はじめて春の木漏れ日をデッサンする人は
黒いスポーツキャップをかぶっている
背骨のひとつひとつが明瞭で
白い服をさらさらいわせ
にぎやかな空白に
筆をさしこむ
そしてパレットの虹は無限の混色で
やわらかい床をならし
ぬれた壁をかさね
あまい蕾をゆるめ
影をたたえると
与えられた人間たちは
黙々と草を刈り
屋根を掲げ
どこまでも馬を走らせられるが
火薬にも魅せられる
天井の継ぎ目に足を吸われた
やもりの瞳にマゼンタがなやみ
十字星が邪魔する秘密のおっとせい
醒めない縛りに叫びあげるのは
空をただよう手負いのヨットと
重心のずれた花瓶
鏡の独り遊びに退屈し
崩身のニンフが発砲するたび
みずうみの曲面に
油性の恋がゆらゆらと
あらゆる季節のうつろいを燃える
…春風はいまだくびに冷たい
…蜜が含まれる
ビリジャンはビルのひとつに亀裂を感じ
街からブルーを、護りたいと願う
するとすでに人工の筆致に汚染されつつある
シュール・レアルの脇腹でささやく イヴのように
世界は沈黙の前に答えるべき価値のものがなく
取り返しのつかなくなった現実が
すべての冗談で
春の、夢と デッサンと
支えをなくした永い眠りは
黄昏の色うすい刻限に迎えられ
もう、天体や初恋の思い出となるしかない
ふかいため息とともに
ペイント・ナイフで傷つければ
ぽろぽろと綿が咲きこぼれるから
白日の母に呼ばれた少年のようで
やかんと指を 解けなく結び
かかとに絡む闇を断ちながら
ちょんと残されて
ゆがむ紅のほほを
最後にそっと
なで慈しむ