死の時間
なかがわひろか
あなたの死ぬ時間をお教えしましょうか
隣のベンチに座った紳士が私にそう言った
面白そうですね
是非聞かせてください
紳士は答えた
それで
それは何年後の何日ですか
紳士はふふふと笑って
それは言えませんよ
私は時間をお教えするとしか言っていませんから
そんなことなら誰にだって言える
あんたはただのペテン師だ
まあいいじゃないですか
その答えはいつか分かる
そう言い残して紳士は去って行った
その日から私はその時間が来るたびに
時計を見るようになった
次の日も、
次の日も、
私は毎日毎日その時間を確かめるようになった
何年かそんな生活が続いた後
私は病気になった
神経性のものらしいと医者は言った
心当たりはあるかと聞かれ
私は少し迷った後、首を振った
病気は日々悪くなっていった
毎日何かができなくなっていき
私は日に日に死に近づいていった
ある日
その日はやってきた
私は狂っていない時計を持ってきて欲しいと
最後の懇願をした
紳士が言ったその時間
私は時計を凝視した
その時間がやってきて
そしてその時間は淡々と過ぎて行った
私は笑った
それは最後の笑いになったが
私は笑った
紳士は時間を間違えた
紳士はただのペテン師だ
私はその数分後
息を引き取った
(「死の時間」)