地球の生活
佐々宝砂

今さらながら驚いてしまうのだけど
あなたはまだ生きているのだった
毎日とんでもない数の人が死んでゆくというのに
あなたより年若いバカが自殺するというのに
あなたが死んだという連絡はまだ入らない
だからたぶんあなたは生きているだろう
という希望なのか絶望なのか判別しがたい推測をもとに
私は今日も死人の声を聴いている
エドガーはアル中だったので
死人の声が好きじゃなかったらしいが
私はあいにくと毎日素面で暮らしているのだ
酒抜きヤク抜きただし音楽だけは抜けなくて
死人の声がいつまでも響いている
あと何億年だか経ったら
何十億年だったかもしれないけど
まあ細かいことは言いっこなし
ともかく何億年かあとに
太陽はぶくぶく膨れて地球を呑む
私はそのときまで喋り続ける予定
だから死人の声をお手本に練習中
なのだけど特に練習しなくても
私の声は日々死に続け
あなたの声は私の海馬に死屍累々
それでも私たちはまだ生きていて
おおなんという不思議
私たちはまだ生きていて
おおなんという不可思議千万なこの生活
地球が太陽に呑まれたあとも
私たちの声は宇宙を旅するのだ


自由詩 地球の生活 Copyright 佐々宝砂 2007-04-26 12:05:17
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